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と、意気込んで見たけれども…………
「先生、ありがたいお話のついでに、掃除も全部してくれるとありがたいんですけど……」
「知ってるか?世の中そんなうまい話はないんだぜ?」
「うわー説得力あるわ…………」
ヤクザなら尚更。
俺はスマホの画面を開く。
時刻は午後2時17分。
うん、まだ全然大丈夫だ。先生も手伝ってくれてるし、1つの部屋を30分くらいで終わらせれば4部屋なんて2時間くらいで終わる。
「先生、スピードアップしましょう!」
「ん?ああ、俺は別のやつの様子を見てくるから1人で頑張れよ」
「はあ?!いやいや!」
武縄先生の衝撃発言に、信じられない気持ちになる。
「恋バナする代わりに掃除するって言ってたじゃないですか!」
「ああ、恋バナしてる間だけな?」
「嘘だろ…………せこすぎだろ…………あ、じゃあもっと恋バナしましょ!!」
「悪いな~俺はもう話すことはないんだ。じゃあな!頑張れよ!」
この人本気だ!!
武縄先生はホウキをそこら辺に適当に立て掛けると、さっさと部屋を出ていってしまう。
「ありえない…………」
怒りを通り越してもはや呆れるほかない。
俺は雑巾を握りしめたまましばらく思考が停止していたが、ようやく悟りを開いて1人で掃除をすることにした。
もう一生話してやらん!!
雑巾をベチンと床に投げ捨てると、ホウキを手に取ってまだはいていない部分を綺麗にし、放つ先のないイライラをエネルギーに、高速で雑巾がけをした。
その後も浴槽を磨いたり、トイレットペーパーを補充したり、布団や枕のカバーを交換したりと、ノンストップで掃除を進めていき、ようやく1部屋終わった頃には予定よりも30分オーバーしていた。
クソ……1部屋掃除するのに1時間以上もかかるのかよ……もしかして俺の掃除の速度が遅いだけ……?
洗濯するカバーをまとめて廊下に出ると、ちょうど別の部屋から誰かが出てくるのが見えた。
ネクタイを見るに1年生だ。
その人も俺を見ると、軽く会釈をする。
…………進捗でも聞いてみようかな。
俺はその生徒に近づくと、「あの」と声をかける。
「は、はい……」
まさか俺から声をかけられるとは思っていなかったのか、その1年生は驚いた表情をする。
見た感じ真面目そうで何かをやらかしそうな人には見えないが、ここにいるということは指導室に入れられていた人の中の1人だろう。
そして俺と同じく掃除という罰則を科されてる。
「掃除どれくらい終わりました?」
「え、あ、今2部屋目が終わったところです」
「2部屋目?!」
は、はや…………え、俺が遅いだけ…………?
「あれ?カバーとかちゃんとやってるんですね」
「え?これって交換するんじゃ……」
「俺はいつもやってないです」
「まじ?ていうかいつもって……もしかして常習犯ですか?」
「ま、まあ……ははは……」
何照れてるんだこの人…………
「何やってここに入れられたんですか?」
「あーー、その……覗き?みたいな?やめられなくて…………はは…………」
「…………」
こわ。
「俺ここの掃除何回かしましたけど、カバーは交換しなくても何も言われないですよ。あと雑巾がけとかもしなくて平気です。じゃあ、お互い頑張りましょう」
真面目そうに見えるやつほどヤバいって聞いたけど、あながち間違ってないかも。
絶対またやるじゃんこの人。
「……ってこんなことしてる場合じゃない……」
俺は布団カバーを設置してあるカゴにとりあえず入れると、さっさと次の部屋の床掃除を始める。
ホウキを終わらせたところで俺は葛藤した。
「…………雑巾がけ…………どうしよう」
やらなくてもバレないんだよな?早く黒永先輩に会いに行かないとだし…………
………………………………………………………
あーあ、俺って損するタイプなんだろうな。
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