16人が本棚に入れています
本棚に追加
「ズルイ、ズルイ、ズルイ‼ なして、それが私でないのかなあ? 私の方が睦月のこと大好きなのに、隣にいるのは別の人なんだよ? すごく悔しいのに、なんでだろう? ズルイって思うのに、ちょっと嬉しいかも。似てるのが」
似てると言ってくれたのは、睦月の優しさで本当は全然違うのかもしれない。
それでもいい、今だけでいい。
「私ね、睦月のことが大好きだよ、奥さんに負けないくらい大好きだからね? いつか生まれ変わったら、今度は私にしてね? これは絶対、ぜーったい!」
一方的な約束、透け透けの自分の小指を睦月に差し出すと、グスッと鼻をすすった睦月が必死に指をからめるような仕草をしてくれる。
それだけで、いいの。もうそれだけで。
たとえ、これが果たされることのない約束であっても、今だけは許してね。
「おめでとう、睦月。幸せになって」
「奈緒、俺は」
「あと、母さんも言ってたっしょ? ウチにはもう来なくていいからね? わざわざ墓参りなんかしなくていい。まあ、時々思い出したら心の中でナームーって手でも合わせておいて」
伝えなきゃって思ったんだ。
結婚することを、自分だけ幸せになってごめん、ってそう思っている睦月に、おめでとうって背中を押してあげなきゃって。
そうでなきゃ、睦月はこの先も、どこかで私に縛られてしまう。
私は、睦月の三日月みたいに笑うと細くなる目が好きだった。
別れ際に睦月がその笑顔で『したっけ』と、去っていくのを見るのが大好きだった。
あの頃、私の毎日は、いつだって睦月と共にあって。
したっけで笑い合って、手を振れば明日も明後日も続いていくって、そう思っていたよ。
だって当たり前の日常だったんだもの。
「睦月に会えて幸せだったし、本気で睦月のことが大好きだったよ。したけど、私ってば、永遠の十八歳だから、睦月と同じ世界にはいられないわけさ」
笑ったつもりだったのに、睦月の顔がボヤけて見える。
不思議だな、幽霊も寂しいと涙が込み上げちゃうみたい。
「奈緒」
睦月の指先が延びてきて、いつかのように私の頬を撫でるそぶりをした。
「睦月が幸せでなきゃ、多分私は成仏なんかできないからね? 睦月が情けない顔してるから出てきちゃったんだよ? せっかくゆっくり眠れてたのに、無理やり起こされて可哀そうだと思わない? 責任とって、とっとと幸せになんなさいよね!」
怒ったフリをして膨れたら、睦月は、ボロボロと泣きながら笑っている。
「なまら責任重大だな」
「んだってば! もう呼ぶんでないよ。呼ばれても出てこないけどさ」
涙を拭ってニッと笑ったら、仕方なさそうに必死に微笑んで睦月は頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!