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「覚えてる? あのコンビニで、私たち」
「忘れるわけねえべや! なしてソフトクリーム振って走ったのよ?」
思い出したのか睦月の目が三日月みたいに細くなって笑いを堪えているみたい。
その仕草にむうっと膨れて。
「や、したって、まさか落ちると思わないっしょ」
「ブンブン振り回しながら走れば、落ちるに決まってるべ」
苦笑いした睦月の脳裏には、きっと私と同じ光景が広がってる。
高校一年生の時の私が、コンビニの入り口から出て、睦月を見つけて走り出した夏の日のこと。
だって偶然でも、好きな人に会えたのが嬉しくて、睦月も私を見て立ち止まって待っててくれてるんだもん。
そりゃあ、もうはしゃいじゃうってば。
コンビニで買ったばかりのチョコレートソフトクリームを持つ手を大きく振りながら「睦月――‼」と駆け寄った。
そしたら、コーンカップから抜けたチョコクリーム部分が、まるで野球ボールみたいに空高く舞い上がって。
「泣き笑いしたわ。思い出すと今でも笑える」
「ひどい! 私チョコソフトまみれだったのに」
華麗に空を舞ったソフトクリームは、私の頭にベチャリと着地した。
大丈夫か、と心配しながらも笑い過ぎて泣いている睦月は、コンビニでタオルや布巾を借りて、ベタベタになった私の髪の毛を拭ってくれた。
ああ、やっぱり私この人のこと好きだなって思っちゃって、そしたら後先考えずに言ってしまった。
『睦月って彼女いる? いないなら』
言いかけた私の言葉は、睦月に遮られてしまう。
『いるよ、好きな子』
真っ赤な顔で私を見下ろす睦月の瞳を見上げたら感染したみたいに、私の頬が火照り出
す。
『送ってく』
沈黙に耐えられなくなった睦月は、私に手を差し出した。
初めて繋いだ睦月の手がとても大きくて、だけどお互いその内側がソフトクリームでベタベタしてる感じは気づいてて、だけどそれに触れることはせず、ひたすら緊張していたよね。
「ソフトクリーム、食べるにはまだ寒いね」
四月というのに、まだ冬と春の合間みたいな、灰色めいた空を見上げてため息。
「食う気だったのかよ」
失笑する睦月を振り返り、ベエっと舌を出し、次の場所へと先を歩き出す。
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