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「懐かしいな」
目を細めた私たちの前に広がるのは、津軽海峡、目をこらせば遠く青森まで見えることもある場所。
今日は沖まで霞んでいてそれを臨むことができないのは残念。
あの頃と同じように、砂浜に打ち寄せる波の音、潮の匂い、少しだけ湿気を含んだ海風。
懐かしく思い浮かぶのは、たくさんの楽しい思い出と、ほんの少しの切なさ。
バスケ部だった睦月の部活が休みの日は、放課後になると、コンビニでジュースやお菓子を買って、必ずここに来たのを覚えている。
「ケンカしたの、覚えてる?」
「覚えてら、奈緒が泣いたの」
「違うっしょ、泣いたのは睦月の方だし」
少しだけ嘘をつく。
だって睦月だって嘘をついてるんだもの。
最初に怒って泣いたのは確かに私で、だけど睦月だって泣いてたじゃない。
『……別れる』
あの日、睦月をここに呼び出して、そう告げた時、理解できていないように口をポカンと開き、私を見下ろしていた。
風が強くて、睦月の背後に見える海が白い波しぶきを立っていたのを覚えてる。
だって私は睦月の目を見ていることができなくて、視線を海へとすぐに反らしたのだから。
『なして……?』
小さなため息のあと、カリカリと首の後ろを掻く睦月。
なぜ私が別れたいと思ったのか、そんなのもわからないのか。
半年も付き合ってきたというのに、と思いを巡らせてから、ふと。
そうだ、睦月と手を繋いだあの日から、付き合っていると思っていたのは私だけだったりして?
だからこその『別れたい』への答えが『なして?』だったり?
そもそも付き合っていると睦月が思ってなければ、別れる宣言は一方的でおかしいのかもしれない。
ハッキリと睦月の気持ちを聞いたことがなかったのを、今さら不安に思った。
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