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『誰か他に好きなヤツでもできた?』
やっと絞り出したように呟いた睦月の声に、反射的に首を横に振る。
そんなわけない、睦月以外そんな人できるわけがない。
悔しさが頬を伝って流れ落ちる。
それに気づいた睦月の指先が、堰止めるように私の頬を拭ってくれた。
睦月の体温が、じんわりと沁みてきて、こんなに好きなのに、どうして別れようなんて思っちゃったのだろうと口にしてしまった後悔が押し寄せてくる。
だけど、私、私ね?
『睦月の方じゃん、他に好きな子がいるの』
二番目なんて、嫌だったんだ。
二年生になりクラスが別れて、休み時間に睦月のクラスを覗くと隣の席の子がいつも側にいた。
以前は、そこは私の場所だったはずなのに。
睦月の好きなアイドルと同じ名前で、笑顔もどことなく似ている気がして、なんだか胸騒ぎがした。
彼女のことを名前で呼び捨てにし、微笑み合っているのを幾度となく見かける度に、胸の奥がえぐられたみたいにジンジンしてた。
『は? 誰のこと、言ってんの?』
『睦月の隣の席の』
『アヤカ?』
頷いた私に、睦月は大きなため息をついた。
『奏太の彼女な、アヤカは』
奏太って、確か睦月と同じバスケ部で幼なじみだという、あの?
『大沢くんの?』
私も睦月に紹介してもらって、よく知っている大沢奏太くんの、彼女?
『んだ、最近ようやく付き合いだしたわけさ、あの二人。今度、奈緒にも紹介すっから。あ、それとアヤカも俺らの中学だから、仲良く見えてたかもしんねえけど、全然違うからな?』
苦笑いをする睦月の目は、いつもみたいに三日月のように細くなって。
『あと、もう一個、ずっと言いそびれてた』
首をかしげた私の耳に。
『俺が好きなのは、奈緒だから。照れくさくて、今までちゃんと言ってなかったの、ごめんな。したけど、いきなり別れるって言われたら、なまらビビるべし、あせるし、マジで振られるのかと……』
照れたように笑った瞬間、睦月の瞳から何かが流れ落ちたのを見た。
『したって、悔しかったんだもん。睦月に振られる前に振ってやろうって思ってた。ごめんね』
今度は私が苦笑して、ポケットから取り出したハンカチを、少し背伸びをして睦月の目に宛がった。
『だで、ムカつくな、それ』
少しだけ屈んだ睦月と至近距離で視線が絡んで、自然と目を瞑る。
初めてのキスは潮風の味がして、抱きしめられた私は、そのまま睦月の胸の中で嬉し泣きした。
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