したっけ

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 ヒイッと息を吸いこんだような悲鳴に振り返ると、これでもかってほど目を丸くした恋人が突っ立っていた。 「なまら、あせった――‼」  今度は大きく息を吐き出し呼吸を整えだす。 「人の顔見てビックリするとか、なんだの? ケンカ売ってんの?」  腕組みをして見上げた視線の先で困ったような顔をした睦月。 「したって、さっき会いに行ったばっかりだべし。まさか、ここで会うとは思わねってば」  ああ、そういうこと?  驚いた理由に納得して、立ち尽くしたままの彼の周りを歩き出す。 「先回りしてお見送りに来てあげたんですけど? 優しいでしょ?」 「はいはい、なんだっけ? 奈緒は優しさと思いやりと親切でできてますだっけ?」 「ちげえわ、奈緒の成分は優しさと愛でできてます、だわ」  私の冗談にようやく頬の筋肉をゆるませた睦月。 「さっきはウチの母さんの前でかしこまった顔してたけど、緊張してらの?」  下から挑発するように覗き込むと、イジけたように口を尖らす癖。  高校の時も、私と口ゲンカをすると、口ごもってこんな顔してたっけ。 「そりゃ、緊張するに決まってるべよ」 「だよねえ、結婚のご挨拶だし」  ニヒヒっとからかうように笑ったら、また口を尖らして私から目を反らした。 「睦月、ちょっと見て。あれ、見て!」  話しを変えるように、私が指さす先に見えるのは、かわいらしい高校生カップルが手をつないで歩いている姿。 「懐かしくない?」  私たちの高校の制服を着ているせいか、まるで十年前の自分たちを見ているようで、懐かしさが込み上げて胸の奥がくすぐったくなる。 「ウチらも、繋いどく?」  差し出した私の左手に誘われるように、右手を広げた睦月は寸前のところで手を止めて。 「あぶね、トイレのあと手洗うの忘れてた」  ベッと舌を出しおどけて笑うとポケットに手を突っ込み、高校生カップルの後ろ姿を見つめている。  私は繋ぎそびれた手をギュッと握って、一瞬唇を結び、気づかれぬようにすぐに解き、また話題を変えた。 「睦月、今日中に東京さ帰るんだっけ?」 「いや、明日の朝の飛行機だけど」 「したら、時間あるさね。今から私にちょびっとだけ付き合ってよ」  どこに? と首を傾げた睦月の少し前を返事も聞かずに歩き出す。   十分ぐらい歩いた先に見えてきたのは、この辺りで一軒しかないコンビニだ。
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