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死ぬのかな、コレ。
そう思ったのは、外国語専門学校の午前授業を終えた後のこと。私は三号館にある図書室を早紀と一緒にでて、お気に入りの洋食屋まで向かっていた。
前にあるコンビニを右に曲がり、すぐ左の商店街を真っすぐ。五分程度で店前だ。
十二月の下旬という季節柄、外気の寒さは増してきて、コートが手放せなくなってきた頃だった。
洋食屋の手前で突然、息苦しくなった。胸に手をあてて道路に座りこみ、隣にいる早紀に訴える。彼女は顔を青くして洋食屋に駆け込んでくれた。灰色のアスファルトを見つめる私の耳に、ドアベルの音が響く。
すぐに店長が私に駆け寄ってきた。
エプロンから漂う油の香りが漂っているのを、不思議と冷静に嗅ぎとれた。でも「大丈夫か?」という問いかけに答える余裕はない。
早紀が背中を擦ってくれている間に、店員が呼んでくれたのか。救急車が来た。数分のことだろうが、苦痛に耐える時間はやたら長く感じた。赤い光が強弱をつけて目に飛びこむ。
救急隊員から氏名と年齢などを聞かれ、早紀が代わりに答えてくれた。私は体を丸めながら頷くのみ。車内に乗りこんで、付きそう早紀の手を強くにぎる。
救急車内では、苦しさのあまり意識が途切れ途切れとなった。
──英文法の授業後、翻訳者でもある先生へ質問をしたこと。
高三の時、図書室で友人と一緒に進路を悩んだこと。
仲良しの子と手をつないで登校した、小学校低学年の朝。
時と場所を越えた記憶が、次々と変わっていく。
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