おはようの魔法

1/1
前へ
/1ページ
次へ

おはようの魔法

町の小さな学校に通うアオイは、ちょっと変わった小学生でした。朝、学校に行くときも、授業が始まる前も、誰にも挨拶をしませんでした。友達のヒナやユウキが「おはよう!」と言っても、アオイはうなずくだけで、言葉を返すことはありません。アオイは、挨拶なんてただの形式で、意味がないと思っていたのです。 ある日、学校の帰り道、アオイは近所の神社の前で、見知らぬおじいさんに会いました。おじいさんはにこやかに微笑み、アオイに「こんにちは」と声をかけました。しかし、アオイはそのまま無視して歩き続けました。おじいさんは少し驚いた様子でしたが、何も言わずに去っていきました。 その夜、アオイは奇妙な夢を見ました。夢の中で、学校の教室はいつもと変わらず友達がたくさんいるのに、誰一人として声を出しません。先生が来ても、黒板に書かれた「おはよう」という言葉は読めるのに、誰も発音しないのです。ヒナが隣で笑っているのに、その笑い声さえ聞こえません。アオイは不思議な気持ちになり、声を出そうとしても、どうしても口が動きませんでした。 目が覚めると、アオイはなぜか胸が苦しくなっていました。学校でみんなと話せなくなるのは、こんなに寂しいことなのか、と初めて感じたのです。 翌朝、学校に行くと、ヒナがいつも通り「おはよう」と声をかけてきました。アオイはしばらく迷っていましたが、思い切って「おはよう」と返してみました。ヒナは少し驚いてから、にっこりと笑い返してくれました。その笑顔を見て、アオイはなんだか心が温かくなるのを感じました。 それからアオイは少しずつ、挨拶をするようになりました。はじめはぎこちなかったけれど、毎日「おはよう」「こんにちは」と言葉を交わすたびに、学校が少しずつ楽しくなっていきました。友達と一緒にいると、まるで毎日が少し明るくなるような、そんな気持ちでした。 ある日、またあの神社の前で、おじいさんに会いました。今度はアオイの方から「こんにちは」と声をかけました。おじいさんは優しく微笑みながら「こんにちは、今日はいい天気だね」と返しました。その瞬間、アオイは挨拶には魔法みたいな力があるのだと感じました。たった一言で、誰かの心を少しでも明るくすることができるんだ、と。 それ以来、アオイは挨拶を大切にするようになりました。挨拶が人と人をつなげてくれる、そんな魔法の言葉だと気づいたからです。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加