Poltergeist für dich

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 線香の香りが、ふわり、と、周囲の空気を辛気臭く染めている。 「なあ。……嘘じゃねえか」  親友の遺影をじっと見つめながら、落合(おちあい)(いちご)は、ぽつりとそうつぶやいた。 『絶対守ってやるから』  儚げな声がさっきから、脳内にずっと、リフレインしている。 「嘘じゃねえか……」  洟をすすりあげる。頭の奥がきいん、として、するどく痛む。頭が、いやに重かった。  そこに、――いつもの、あの、背筋が寒くなる感覚。 (あ。……来る)  そう。  奴らはいつも、ひとの悲しみにつけ込んでくる。  ぶるり、と身体が知らず、ひとりでに震える。肩が、異様なまでに凝るのを感じる。 (いけねえ。気を、強く持たないと、――憑かれちまう)  いままで、ほとんど誰にも信じてもらえなかったが、落合苺は、……霊媒体質だった。  物心ついたときから、近くに霊が寄ってくる。  身体の中に、入ろうとしてくる。  意識を、乗っ取ろうとしてくる。  日常的に、悪戯をしかけてくる。  そんな体質を持って生まれたことで、『自分のことを霊媒体質と主張する、ヘンな奴』だと周りからは見られてしまい、いつしか自然と、敬遠されるのがデフォルトになっていた。  ぶるぶる、と首を振る。葬式中なので、周囲のひと達は顔を上げなかった。お坊さんの読経が、延々と続いている。 (お坊さんもたぶんきっと、気づいてるんだろうな。オレが、霊を引き寄せちまってること)  最初に、この会場に足を踏み入れたときのことを、想起する。  表情をまったく変えずに、訥々(とつとつ)と他のひと達に挨拶をしていたお坊さんの顔が、……苺を視界に入れた瞬間に、さあっ、と色を変えたのを、彼ははっきりと覚えていた。 (専門職の方だから、何か声をかけてくるかとも思って身構えてたけど、特に何もなかったな)  少し肩透かしというか、なんというか――本人には決して言えないが、正直な感想としては、それがいちばん大きかった。  苺は周囲の誰も目をつぶっているのを良いことに、お坊さんをじっと観察する。  彼は何も気にする様子もなく、相変わらず、よく分からない発音ばかりのお経をあげている。  その近くを霊が二、三匹、手持ち無沙汰そうにうろうろと漂っている。よく見ると、さっきから首元に息を吹きかけている奴もいる。何悪戯してんだよ。 (さすが本職。まったく動じないな)  感心していると、お坊さんが振り返った。  順番に来るように、と言われる。  灰をつまむやつだ、と、苺は思った。 (……じいちゃんのときも、そうだった)
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