2人が本棚に入れています
本棚に追加
そこに現れたのが、真白だった。
◇
「ふう」
ヤンキーたちの折り重なって倒れた身体の上にどかりと腰掛け、にかりと笑う。
「なあ。霊媒体質って、ほんとなのか?」
人なつこい表情のなかで、よく見ると瞳はぜんぜん、笑っていない。
ほうっておくと、じきに人間をやめてしまいそうな、……そんな、異形とも称せられる眼光をはなつ、瞳。
「ちょうどよかったあ。ねえ、苺。僕のラバーにならね?」
「……は?」
山から降りてき、じっ、と至近距離に顔を寄せて、苺を見つめる。
「僕、飽き飽きしてたんだ。中学でも高校でも、ケンカに明け暮れる日々に。ついには無敵の人、とか呼ばれて、遠く離れたとこに進学してきても、弟子志願のやつがついてくる始末だよ。おかげで、この進学校が、いまではヤンキーどもの巣窟になっちまった」
おかげで、したかった心理学の勉強も、こんなとこじゃ落ち着いてできそうにない――。
ため息をつき、でも、と、苺の頬を撫でる。「元の、その本来の目的は、達成できそうだな。よかった、よかった」
「え。……」
唇がほんの一瞬、あたたかくなる。
「あは。イチゴ味じゃないんだな、さすがに」
顔真っ赤だぞ、とからかわれる。
「僕はね。試したいんだ。無敵の人と呼ばれる僕が、ほんとうに、無敵なのか」
僕は正直、自分のことを、そこまで強いと思ってない。
特に冗談めかしもせずに、耳を疑うことを口にする。
「手始めに、死に、抗えるか。試してみようと思うんだ」
「……は?」
訊き返す。
「え、なんて?」
「あ、もちろん、自分から死にに行くような愚かなことはしない。ただ、さすがに、そのまま死んじゃったら怖いから、保険をかけときたいの」
「保険?」
「そ」
短く答え、るん、と、よくわからない鼻歌を、ひとくさり口ずさむ。
「……愛するひとがいたら無敵だ、って、よく言うだろ。だから」
手ごろなのがいて、ちょうどよかったや。
「暴論すぎるだろ」
つぶやいて、苺は思わず、ふは、と笑った。
「めちゃくちゃだよ……」
「よく言われるよ」
つまらなさそうに、鼻を鳴らす。
「でも、死なないでくれな。助けてくれた恩人なんだから、悲しいや」
続けられた苺の言葉に、真白の呼吸が止まる。
「……やっべえな、あんた」
胸を押さえる。
「そんなこと、初めて言われたよ。ひさしぶりにすっげえ、どきどきした」
なあ。
幾分かやわらいだ光が、苺に向けられる。
「守らせてくれるかい。僕の、挑戦のために」
「おう。こんなオレでも、よければ」
最初のコメントを投稿しよう!