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「ううむ……」
迷う伊志嶺を見、
『ああもう、まだるっこしい!』
と、真白がふいに、大声を放った。
「何?」
瞬時に、数珠を構える。
「ついに、本性をあらわしたか!」
『ちげえよハゲ』
「はっ……」
唖然とする彼の前で、よっこいしょっと、と、大儀そうに身を起こす。
『行動で示せってことだよね? おじさん。……ならちょうどイイ感じのが、ここらへんにいるじゃねえか』
くいっ、と部屋の隅に、指を向ける。
ひとかたまりになって、むくむくと成長しつつあった霊たちが、ぎくっ、と身を強張らせた。
『いくぜ、野郎ども!』
瞬間。
目に見えない暴風が、室内に吹き荒れる。
数秒後には、霊たちのすがたは、まるでウソだったように雲散霧消していた。
『はあ。雑魚が』
光の消えた目でつぶやき、
『どーよ』
と、伊志嶺に笑いかける。
『これで、安心だろ?』
「……」
ひとつ、息をつく。
「あっぱれだ。わたしでも、いまのような速度で、あの数を祓えるかどうか」
気配も消えている。どうやら、全部、成仏しているようだな――。
ひとつうなずき、
「では、わたしはこれで失礼する」
と、唐突に、背を向けた。
「帰るんですか?」
苺の問いかけに、手を振って、短く応える。
「いや。ときどき、様子を見に来る」
いちおう、見守りはさせてもらう。
時間を作って、護身術なども教えよう。
真白が不満そうに言う。
『僕がいるから、心配は――』
「万一のことがある。わたしにも、手助けをさせてほしい。そうしないと、面目が立たん」
『素直じゃないな』
真白が笑う。
『同志として、よろしくな』
「……失礼する」
ちいさく、けど確かにうなずき、部屋をあとにする。
『苺の母さん』
急に呼びかけられ、はい、と、緊張気味に応える。
『僕、守りたいものを、探していたんです』
淡々と、語る。
『強さだけ手に入れても、きっと意味がない。心の底で、そう分かっていたから』
そのために、心理学を学ぼうとしました。
弱いものの気持ちを知るために。
『そこで、苺と出会って。やっぱわからないかも、ってのと同時に、……でもだからこそ、大事にしようって心から、思った』
自分とは相容れなくても、大切にする。
そういうものなのかな、と。
『だから息子さんのこと、全力で守りますんで。よろしくお願いします』
「……ありがとう。よろしく頼むわね」
母が微笑む。
二人は互いに、言葉を交わした。
「なあ。真白。ずっと、いっしょだからな」
『おう、苺』
これから騒がしい毎日に、なりそうだった。
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