運命の一冊 タナカカツキ「サ道」

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ひょんなことから人生が大きく変わり始めることがある。 一冊の本がきっかけとなることも少なくはない。 「運命の一冊」はタナカカツキ氏の「サ道」だと思う。 実際、タナカカツキ氏の「サ道」で少し人生は変わったと思われる。 ちょうど、タナカカツキ氏の「サ道」を知ったのは2021年頃の新型コロナ騒動の頃だ。 2020年4月、新型コロナウイルスの影響で日本政府は緊急事態宣言が発令される。街からは人が消え、可能であれば仕事はリモートワークになった。人々の中には雇用調整助成金の支給を受けて生活する人もいた。ほとんどの人々は仕事が減少し、当然、収入も減少し、嘆いた。 ところが僕は多くの人のそれとは違っていた。〝既に生活がどん底〟だったのである。仕事も子供の頃に憧れた仕事でもなく、ただ生活のために仕方なくやっているだけ。緊急事態宣言の初期の頃は一ヶ月に2日か3日だけ出社して仕事すればいい。もちろん新型コロナ以前よりは収入は減っているが、「いいじゃないか」と生活に悲観はしていない。 〝むしろ、このままでもいいよ〟と不謹慎極まりない考えさえ起こしていた。外に出れないならそれでいい。 少し前にベーシックインカムが話題になっていたが、今回の新型コロナ騒動で〝強制ベーシックインカム〟になっているな。 今回の新型コロナ騒動では確実にデータ取りができたはずだが、実はベーシックインカムはイケるのでは?と妄想が止まらない。 パソコンでホテルの宿泊代金などを調べれば、京都のドーミーインが朝食込みで1泊7000円程度ととんでもない破格になっていることを知る。 「そんなバカな!」 あそこは京都だし、少なくとも12000円~13000円はしたはずだ。僕は会社には黙って京都に出かけることにした。 僕は航空会社の下請けで働いていたため、国内線の航空券が半額以下で購入できた。この新型コロナ騒動のなかで格安航空券を会社に申請すれば怒られるかと思えば、怒られなかった。むしろ完全スルーで発行された。 こちらとすれば「えっ!?いいの⁉」である。 羽田から飛行機に乗ってどこかへ行くのは僕にとって現実逃避である。全然違う環境に行くのは異次元にでも行ったかのような気分になる。機内から外の景色を眺めるのもまたいい。 しかし、羽田空港も伊丹空港も完全にその〝異次元〟であった。空港には人がいない。飛行機に乗っても人がいない。まったくもっての前代未聞であった。 そして羽田空港でも大阪空港でも飛行機が余っていた。特に国際線用の飛行機が余っていた。こんな光景は一生忘れることはできないだろう。 こんな不謹慎な行動だが、今は一ヶ月に2日か3日程度の出勤でほとんど雇用調整助成金の支給で生活しているけど、半年やそこらで助成金も切られて会社からも解雇されるだろうと考えていた。そうなれば会社都合で解雇として1年程度は失業保険は出るだろうか?そのあとはどうする? とりあえず、今のうちに飛行機に乗って行けるなら行っておこうという判断をした。無職になったらその時に考えようと。 2020年の10月までには何かしら動きがあるはず・・・・・・。ところが雇用調整助成金は延長、さらに延長であった。 そして気が付けば2021年の夏から秋へ。ワクチンの接種は始まってはいたが、新型コロナウイルスの騒動はまだ収まらなかった。 飛行機に乗っての現実逃避の旅は続いていて、たびたび京都を訪れていた。 京都のドーミーインに泊まっては長めに温泉は入っていた。新型コロナに感染していたとしても温泉の熱でウイルスを殺せるのではないかと。 当初は新型コロナがやばそうだからと温泉に1時間くらいいた。温泉に入ったり、のぼせてきたら足だけ温泉に浸かり、寒くなったら温泉にまた入るといったことをやっていた。 もちろん、新型コロナウイルスに温泉が有効であるというエビデンスはない。しかし、2020年はまだファイザーもモデルナもワクチンは出してはいなかった。 確か、新型コロナウイルスに関しては感染から3日ほどで発症というデータがあったと思った。そしてほとんどの人々はその3日以内に発症する前に治ると。しかし、体質や強い疲労といった条件から不幸にも発症というケースがあると。 ある日、サウナに目をつけた。「サウナなら効率よくウイルスを熱で殺せるんじゃないか?」と サウナどうかな?と扉に近づけば熱いと。こんなの無理だろと諦めた。 まだ出勤が少なかった2021年にたまたまテレビ東京では深夜枠のドラマで松重豊主演の「孤独のグルメ」を放送していた。そしてすぐ後ろが原田泰造が主演の「サ道」であった。 ある日、京都のドーミーインの漫画コーナーで「サ道」という漫画を見つける。それもよく目立つ位置に置いてあった。「サ道」という題名には見覚えがあった。これが原田泰造がやっていたサウナのドラマの原作かと。 当時は「サウナのドラマ?」と違和感があったが、てっきりテレビ東京のオリジナル脚本かと思っていた。まさか原作の漫画があったとは知らなかった。 タナカカツキ氏の「サ道」を読み始めるといきなり衝撃的な展開が。「脳に快感物質的な」やら「副作用のないドラック」やら誤解を生みそうな言葉が並んだ。よく深夜枠とはいえドラマ化できたなと思った。 ドラマの中で原田泰造は〝整った〟という言葉を使っていたが、サウナの後に外気浴をして整う訳だが、てっきり夏場に木陰で涼んでいる時のような、「涼しくて気持ちいいね」程度かと思っていた。 結局、サウナを試すことにして、5分が目標でダメなら3分でも出ることにした。そして生ぬるいシャワーを浴びて、外気浴を5分ほど行うことにしてみた。ただの新型コロナ対策であった。 もちろん、新型コロナウイルス対策にサウナが有効であるというエビデンスはない。 さすがに原田泰造のドラマ「サ道」では「脳に快感物質的な」やら「副作用のないドラック」といった言葉は使っていない。 ドラマ版で原田泰造が使っていた言葉はあくまで〝整った〟である。 とりあえず〝サウナで整う〟に興味を持った僕は『サ道』の1巻を読み漁る。サウナはそこにある。『サ道』はここにある。試してみようと。最初の頃は5分で上出来、ダメなら3分でも出ることにした。とりあえずサウナ5分、生ぬるいシャワーを浴びて、外気浴5分で試してみた。当然、こんなのでは整わない。 もっとも、最初はあくまでも新型コロナ対策がメインであり、ついでに整えば程度だった。 京都のドーミーインの水風呂コーナーを見て、最初は「なんで水風呂?」と本気で思っていたし、たまに見る水風呂に入っている人々を見て「あんたたち何やってんの!」と思っていた。それからしばらくして僕が「あんたたち何やってんの!」といわれる立場になるとはまったく思わなかった。 とはいえ、最初は水風呂が怖い。心臓麻痺でも起こして死ぬんじゃないかと思っていた。これはサ道の1巻にも触れられていた。サウナの後の火照った体と水風呂との間に体温で薄い膜ができるという訳で思ったよりも冷たくないという訳だ。やるならまだ夏場の方がよかったが、季節だけが過ぎていく。しばらくの間は足だけ水風呂に浸けてみたが、足だけでも1分や2分でも、その〝薄い膜〟の存在を感じたこと。他にも水風呂に入り体全体を浸かる人が少なからずいたことにより、遅ればせながら水風呂に浸かることになった。これは2024年の2月の神戸元町のドーミーインだった。 2023年頃になると京都のドーミーインの宿泊代金もかなり上がってきていて、むしろ神戸元町の方が安いという現象が起きていた。少し前なら新しい神戸元町の方が高かったような気がしたが、なぜか逆転した。もしかしたら場所が神戸元町の方が新快速の止まる三宮や神戸ではなく、元町駅だったことが原因だったのか?そうはいっても阪神電鉄なら元町駅は立派な特急停車駅である。しかも神戸の中華街のど真ん中である。リピーターという点ではやはり京都駅前だろうか?何しろ新幹線の停車駅で、当然、特急や新快速も止まる。近鉄や地下鉄もある。そして飲食店も地下街やら駅ビル、伊勢丹、ヨドバシカメラにもある。 とはいえ神戸元町は2021年開業で新しい。いずれそのうちにと思っていたら、意外とそのタイミングは早かった。もちろん、ちょっと横の姫路の方がさらに安いが、ここは神戸元町の方がいいかなと。 神戸元町とはいえ、三宮からそんな遠い訳でもないし、神戸からも遠い訳ではない。飲食店だってない訳ではない。もっとも神戸にはライバルの万葉俱楽部がいる。現状は穴場といったところだろうか? 2023年の11月に初めて神戸元町のドーミーインを利用した。京都にはない無料のマッサージ機や漫画コーナーの漫画も京都よりも多かった。そして京都駅前は1Fはローソンだったが、ここはレストランだった。このレストランは朝はバイキングの会場となる。朝のバイキングが終われば、それ以降はレストランとなる。ケーキやコーヒーなども用意されているので喫茶店としても利用できる。京都駅前とは少し趣向が変わっていた。京都駅前は朝のバイキングと夜の夜鳴きそばの時間以外は食堂は使っていなかった。それ以外は近くの飲食店を使ってくださいというような印象を受けた。すぐ近くに京都の地下街や駅ビルなんかにたくさんの飲食店が存在するから、競合を避けるのも一つの方法だろう。しかし、神戸元町は自社のレストランを出して勝負に出ると。この違いが面白い。実際、このレストランであるオアシスを使ったこともある。まだ新型コロナの影響で営業時間が短い店も少なくなく、タイミング的にオアシスが選択肢に入ったのである。 さて肝心のサウナと水風呂である。京都駅前よりも新しいだけに、少し違うところもあった。サウナ自体は京都とそれほど違わないが、水風呂が京都駅前より横の壁がない分、開放感があった。そして水風呂が少し浅いような気がした。これにより結局、最初に水風呂で体全体を浸すことになったのは神戸元町の方のドーミーインだった。そして外気浴スペースの充実である。少し前の京都駅前は外気浴スペースの整い椅子が1つしかなかった。神戸元町は外気浴スペースの整い椅子が3つあった。もっとも京都駅前の方も2024年1月の改修で整い椅子は3つになったが・・・・。 そして、2024年の2月の神戸元町である。やはり足だけを水風呂に浸けていたところ、何人かが水風呂に体全体を浸からせていた。とりあえず、今のタイミングでも死なないと。そして神戸元町は横の壁がなく開放感があり、少し浅い。もしかしてイケるのではないか?と腰まで水風呂に入れた。ここまでいけば肩までイケると水風呂に浸かる。とりあえず1分だけとGショックのタイマーをスタートさせる。1分が過ぎて水風呂から出る。そしてタオルで体を軽く拭いて、今度は外気浴である。2月の神戸で外気浴となると風邪をひくのでは?と不安になったが、意外と大丈夫だった。これも『サ道』で書いてあったが、水風呂の冷たさで毛穴がキュッと締まって体温が失われないようになっていると。とりあえず外気浴も5分とタイマーをセットした。するとどうだろう、足からの血流を感じた。そして〝整う〟という感覚である。 結論としては〝水風呂に入らないと整わない〟である。 『サ道』では3回セットで整う感覚が来るという話だったが、僕の場合、1セット目でいきなり来ている気がする。サウナをやる人もさらに水風呂に外気浴までやる人は周りにはほとんどいないから、どれが整うの感覚なのか正解がわからないが、『サ道』で書かれている目安の1つが〝目がバッキバキによく見える〟ことである。その1回目から〝目がバッキバキによく見える〟のである。 〝目がバッキバキによく見える〟という感覚がまた面白い。僕はレーシック手術の経験者なのだが、レーシック手術の前に整うの感覚を知りたかった。〝目がバッキバキによく見える〟という感覚も時間が経つに連れ通常に戻る訳だが、もしかしたら小学生の頃の初期の近視であれば、サウナで整うを繰り返せば、治っていたかも知れない。 またサウナで整うというのを何回か経験すれば〝ひらめき〟という回数が増える。これもサ道に書いてある。だから音楽をやっている人や小説や漫画をやっている人にはお勧めかもしれない。実際、タナカカツキ氏は「サ道」で結果を出したし、少し前に話題になった「カップのフチ子」はタナカカツキ氏の物だ。 2024年の2月から本格的にサウナで整うようになって、少し生活も変わった気がする。これは「人生が変わるかも知れない」とタナカカツキ氏の「サ道」を全部買いそろえることにした。サウナに入るだけでなく、色々とエピソードが書かれている。サウナと水風呂がなくても整うケースも何点か紹介されている。 サウナに入る時間も水風呂と外気浴の時間も個人差がある。また個人的には血圧の上昇に伴い心臓などに負担がかかるだろうから、心臓に疾患があるとか頭痛持ちの人たちには向かないと思われる。 タナカカツキ氏の「サ道」を参考により整う方法を研究したいと1巻から6巻まで全部買いそろえた。そして、家の近所のスーパー銭湯にもたまに行くようになり、自宅近くでも整うようになった。もちろん京都駅前のドーミーインでも整うようになり、〝景色がよければよく整うだろう〟と琵琶湖のほとりのスーパー銭湯にも出向き整うようになった。 生活が少し変わったというのはサウナで整うことを知ってから、大きなトラブルがない。トラブルが起こったとしてもなんとか解決できるのである。まだ解決できていないこともあるが、そのうち解決できるかも知れない。何かのご加護でもあるのではないか?と思えるほどだ。サ道のなかにも書いてある「サウナがあれば戦争とか争いがなくなるかも知れない」と。これも「脳に快感物質的な」やら「副作用のないドラック」の成果だろうか? 僕ははっきりいって負け組だろう。一つ間違えば自殺していたかも知れない。しかしサウナで整うという方法を手に入れた。負けは負けでもいい。この歳で別に勝とうとは思わない。たまにサウナに出かけて整うことで、人生を淡々と過ごせればそれでいい。
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