一章

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 その日も、いつものように光汰は月夜に会いにきた。 「今日は町で(あめ)を買ってきた。お前に食わせてやろうと思ってな」  そう言って光汰が差しだしたのは青、赤、黄と色鮮やかな飴菓子だった。 「ありがとう、お兄さま」  月夜はにこりともせずにそれを受けとる。  光汰はにやにやしながら月夜に顔を近づけて、おもむろに手を伸ばす。それから月夜の髪を撫で、頬を撫でた。  月夜はぞわっと鳥肌が立ち、思わず振り払ってしまいたい衝動をなんとか抑えた。 「お前、ずいぶん大きくなったな」 「もう17になりますから」 「そうか。もう嫁に行く年頃か」  光汰が月夜の腕をつかんでじっくりと見つめる。 「お兄さま?」 「月夜、お前は美しいな。こんな白い肌をした女を俺は見たことがない」  まただ。兄は最近、月夜の身体(からだ)に触れながらそんなことばかり言う。  月夜は兄の手を振り払って顔を背けた。
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