一章

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 それからしばらく経ち、月夜がうとうとしていると部屋の外から使用人に声をかけられた。 「お嬢さま、大奥さまからお預かりのものがございます」  その声に月夜は飛び起きて、慌てて障子戸を開けた。  使用人はにこりともせず、ただ祖母の香月から届けるように言われたものを無言で月夜に手渡した。そして「失礼します」と言ってさっさと立ち去る。  使用人の愛想がないことはいつものことで、月夜は特に気にしていない。それよりも、受けとったものを早く開封したかった。  年に一度の贈り物で、月夜が人生で唯一楽しみにしている瞬間だ。  贈り物はふたつある。  祖母からは新しい書物と筆。これでまた退屈することがないのは喜ばしいことである。  そして、もうひとつの箱を見ると、月夜は笑みを浮かべながら急いでその箱を開けた。  そこには鮮やかな金赤の髪飾りがあった。  月夜は髪飾りを手に取り、それを掲げてじっくりと見つめる。それは蝋燭の灯りに照らされて、きらきらと輝いて見える。
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