序章

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 月夜(つきよ)が10歳を迎える頃から、見知らぬ者から贈り物と手紙が届くようになった。  美しい字で書かれたその手紙にはあたたかい言葉がいくつも並ぶ。  誕生日の祝いの言葉、月夜の成長を祈る言葉、そしていつの日か会えることを願う言葉だ。  それほど長い文章ではなく、ほんの数行のものだったけれど、月夜にとって年に一度のこの行事が生きる気力になっていた。  手紙の最後にはいつも〈からす〉と書かれていた。 「どんな人だろう?」  周囲から冷たく扱われている月夜にとって見知らぬ〈からす〉はただ、やさしさにあふれている。  毎年届けられる手紙を丁寧にしわを伸ばした状態で、古い抽斗にしまっている。  10歳の誕生日からなので、これで8回目になる。  明治になって数え年から満年齢で数えられるようになったものの、一般的にはあまり浸透せず、明治35年の法律の制定によってようやく誕生日に年齢を重ねることが意識され始めた。  だが〈からす〉はそれより前から月夜の誕生日にきちんと祝ってくれていたのである。
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