序章

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 両親は新しい年が明ける日に兄や姉には歳を重ねる祝いをしていたが、月夜にはそれを与えなかった。新年は祖母への挨拶のために唯一家族全員と顔を合わせることになるが、月夜の存在など空気にすぎなかった。  月夜は〈からす〉に返事を書いて、祖母に渡してもらった。しかし、家族から手紙を捨てられそうになったことが幾度とある。彼らは祖母のいないときを見計らって月夜にいやがらせをするのだ。  手紙の返事が〈からす〉に届いたのかどうか、月夜にはわからない。  けれど、わずかな希望はある。 『いつか、君に会える日を――』  14歳の頃から〈からす〉はそんな言葉を記すようになった。  お飾りの言葉なのかもしれないが、それだけが月夜にとっての救いだ。 「からすさん、私もお会いしたいです」  月夜は手紙を胸に当てて、ひとりそっと呟いた。  じっとりと湿った小さな四畳半の畳部屋には、必要最低限に置かれた棚と薄っぺらい敷布団があるだけ。その他には冬を越すために必要な火鉢がひとつ。  あとは、祖母から与えられたわずかな書物だ。 「……どうか、この身がなくなる前に」  月夜は震えながら祈るように目を閉じた。
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