一章

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 突如、両親が冷たくなったことに理解できず、月夜は混乱した。  同時にこの日から、太陽が恐ろしくなった。  きらきらと雪に降り注ぐ光の美しさを目にすると、今までのように感動することがなくなり、それどころか恐怖に(おのの)くようになったのである。  その日を境に人生があまりにも変わってしまった。月夜は屋敷の一番奥にある窓のない畳部屋に閉じ込められ、監視をつけられてしまったのだ。  それ以来、人の目に触れることを禁じられている。  家族と食事をすることは許されず、それどころか(かわや)へ行くのも監視付きだ。  月夜は誰とも話すことのない孤独な毎日を過ごした。  たまに湯浴みをさせてもらうときに、通りかかった居間から家族の楽しそうな声が聞こえてきた。  普段はそれほど気にしなかったが、父や母や兄や姉の笑い声を聞くと、無性に涙が出てくるのだった。  なぜ、自分は兄や姉のように両親とともに過ごせないのだろうと、不思議に思った。  最後に兄と庭で遊んだ日は、たしか家族みんなで食事をしたはずだ。幼い頃の記憶だが、月夜には家族との思い出がそれしかなかったので強烈に胸に刻まれていた。  楽しかったあの頃のことが、時折思い出されてつらくなる。  月夜はあるとき、父と話す機会があって訊ねたことがある。  なぜ、自分は家族とともに過ごせないのかを。  すると父は無表情で答えたのだ。 「お前はおぞましい吸血鬼だ。(けが)れた血だから生まれてきてはいけなかったのだ」  月夜はそのとき初めて自分が人間ではないことを知らされたのだった。
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