新刊『天使』

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おれは、しばらく運転していなかった軽自動車にのりこんだ。 バッテリーは死んでおらず、エンジンはかかった。 おれは慎重にあたりを確認し、ゆっくりと軽自動車を走らせる。 細い路地をとおりぬけ、片側二車線の大通りにはいる。 左側の走行車線を法定速度をすこし上回る速度で軽自動車を走らせる。 進行方向の信号が、黄色にかわる。 無理をすれば、突破できるタイミングではある。 が、今日は不幸なことばかりがおこる。 おれは、安全策をとりブレーキをかけ停止した。 おれの後方から、大きなブレーキ音と、耳をつんざくようなクラクション音、ゾウが息を吐きだしたような音が聞こえた。 おれはルームミラーで後方を確認する。 ルームミラーいっぱいに、トラックの前面がうつしだされている。 おれの軽自動車と接触しているのでは、と思うほどに距離がちかい。 赤信号だというのに、後方に停車したトラックの運転手は、サンサン七拍子でクラクションを鳴らしている。 これが、あおり運転というものか。 ハンドルをにぎる手に汗をかく。 大通りの道は横にそれたり、パーキングしやりすごす場所がない。 信号が青にかわった。 おれは、法定速度をすこし上回る速度で軽自動車を走らせる。 おれの軽自動車のうしろに、くっつくように走るトラック。 走らせながらも、継続的にクラクションを鳴らしてくる。 がんッと衝撃をかんじた。おれの軽自動車の後方と接触したようだ。 停車して警察を呼ぶべきか、考えていると、再度がんッとぶつけられた。 「・・・・・」 ひとりごとが聞こえないほどのクラクション音。 前を走る車が見えてきた。 前の車もトラックだ。そして高層ビルを建てるための鉄骨がたっぷりと積載されている。 おれの背骨にそって、ひとすじの冷水が流れおちた。 おれは、きっと、トラックに挟まれて死んでしまうんだ。 「・・・・・・・」 おれは叫び声をあげるが、トラックのクラクション音にかきけされる。
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