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「 小説『天使』が、今日発売されます」
ラジオのアナウンサーがいった。
「文豪・角谷才二の十年ぶりの書き下ろし長編小説です」
おれは、角谷才二の小説が好きで大学時代にすべてを読んだ。
格調高い形容詞、さりげなく挿入されるウンチク。
角谷才二の文章に魅せられた。
昨日買ったゴシップ誌にも、角谷才二の小説『天使』の発売をつげる広告がでかでかと掲載されていたのを見つけ、悦び、おもわずウィスキーを飲みすぎたものだ。
すこしウィスキーの雫がたれた『天使』の広告ページ。
小説の表紙には天使が描かれている。
天使の姿は、西洋画に描かれるような大人びた顔、生後6カ月ほどの体格、こぢんまりとした白い羽が肩甲骨からはえている。
会社に行く準備をしっかりと整えた。
おれは部屋の鍵を手にもち、革靴をはいた。
「今日仕事がえりに、『天使』を買おう」とつぶやいた。
部屋をでて、しっかりと鍵がかかったかを確認したのち駅へと歩みをすすめる。
部屋にのこされた天使が、「ちッ」と舌打ちをした。
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