天使ならざる者よ

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天使ならざる者よ

 双子の兄であるセイカは、僕のことが嫌いだ。中学生の頃から、ずっとそう感じてきた。  正確には、幼稚園くらいの頃は仲良く過ごしていたはずだ。しかし僕が魔法使いの素質を見せるようになり、将来天使を目指すと言ってから様子が変わったような気がするのである。 『てめえなんかが天使になれるか。ゴミカス程度の才能しかないくせに、調子に乗るんじゃねえ!』  何故、今まで優しかった兄さんが豹変したのか、僕にはまったくわからなかった。父さんや母さんがいくら諫めても、彼は僕を罵倒することをやめなくなったのである。  僕達の世界で、最も名誉ある役職――それが天使だ。  この世界は、偉大な女神様が収めている。女神様にお仕えし、この世界の創造と管理のお手伝いをする、それが天使のお仕事だ。天使の地位は、この世界のどんな王様よりも上だとされている。天使が出た家は女神様が莫大な富を与えてくれて、一生安定な生活が約束されるのだ。天使になれるのは、高い魔法使い素質がある人間だけ。特別な魔法学園で、最も優秀な“賢者”と認められた者のみが、天使になる資格を得るのである。  天使を出した家は“賢者の家”と呼ばれ、国王から公爵相当の地位も与えられるし、その名誉は未来永劫称えられることになる。  その代わり、天使となった者は女神様のいる天国で住み込みで働くので、家族とは離れ離れで暮らすことになってしまう。それを寂しいと思う人間がいるのもわからないことではない。唯一、デメリットと言えるのはそれくらいだろう。  何にせよ、子供が天使を目指すことは、家族にとってすごく嬉しいし誇らしいことであるはずだ。離れ離れで暮らすのが寂しいというのはあるだろうけれど、それ以外の理由で止める必要なんてない。  それなのに、兄さんは僕に天使になってほしくないようだった。  僕がどうしても天使を目指すと言って聞かないのを察すると、彼は僕を射殺さんばかりに睨みつけながらこう言ったのである。 『なら、俺も魔法学園に入る。てめえが天使になるのを、一生邪魔してやる……!』  あの時の兄の恐ろしい顔は、今でも夢に見るほどだった。
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