天使ならざる者よ

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 ***  魔法学園高等部、赤の寮。  僕とセイカはともにそこに入寮したが、二人の仲は険悪なままだった。僕の入学試験の成績が兄さんより良かった、と知った時の彼の顔たるや。一体どうして、そんなに憎まれるようになってしまったのだろう。僕は悲しくてたまらなかったのである。  そもそも僕が天使を目指した最初のきっかけは、兄さんに認められたかったからだ。  双子なのに、僕達は全然似ていなかった。兄さんの方が美形だし、背も高いし、運動神経もいい。入学試験の時だけは僕の方が点数が良かったけれど、基本的には魔法も勉学も兄さんの方が上だ。  嫉妬するような理由なんてない、そのはずなのに。 「それは、やっぱり嫉妬なんじゃない?」  魔法学園でできたガールフレンドのメナ。彼女は僕の話を聞いて、ぷう、と頬を膨らませたのだった。 「残念だわ。タイカくんのお兄さん……なかなかかっこいい見た目なのに、そんなに器の小さい男だったなんて!」 「嫉妬?でも、兄さんは……」 「お兄さんは、元々魔法使いとして特別な素質があったんでしょう?小さな頃から女神様の声を聴くこともできたし、予知能力もあった。まるで、“神様の子”だわ。選ばれた存在だ、っていう自負があったんじゃない?」  それなのに、と彼女は鼻で笑う。 「タイカくんがめきめき実力を伸ばして、お兄さんに迫るくらいのものとなった。そりゃあ焦るし、怒るわよ。自分こそが天使になって家に名誉を齎すと思っていたのに、その地位も弟のあなたにかっ攫われるかもしれないとなればね」 「そう、なのかな」 「そうに決まってるわ。……残念だけど、仲良しだった兄弟姉妹が仲違いする理由って三つに一つだもの。お金か、恋愛か、プライドか。前二つがないんだから、答えは最後の一つだけでしょう?」 「……うーん」  一理ある。  が、どうにも腑に落ちない。だって、彼が僕に冷たくするようになったのは中学生に入ってすぐに頃のことだ。あの時はまだ僕は魔法の素質こそあれ、兄さんと比べれば全然できることが少なかった。  例えば兄さんが炎の柱を生み出すことができるなら、僕は小さな火花を散らせるのが精々。それくらいの実力差があったのに、何で嫉妬する理由になるのだろう。  激怒されたのが入学試験の結果を見て、ならまだわかる。でも彼が僕を罵倒し始めたのはもっと前のことだったはずだ。 「納得いかない、って顔してるわね」  僕の様子を見て、メラは呆れたように肩をすくめた。 「あなたがそこまでお兄さんを好きでいるっていうのは、素晴らしいことだと思うわ。でも、あまり好きになりすぎると、裏切られた時辛いものよ。……仮にお兄さんの態度に理由があったとしても、天使になるためのライバルであることに違いはないんだから」 「……うん。わかってるよ」  天使は、この学園で一年に一度しか選ばれない。  そして、それは三年生とは限らないのだ。優秀な実力を示すことができれば、一年生が賢者に選ばれることだってあるのである。  その基準は普段の筆記試験、実技試験の結果。それに加えて定期的に行われる“選抜試験”の結果が非常に大きいとされている。 ――兄さんの事は気になるけど……それ以上に、普段の生活と勉強、ちゃんとしなきゃ。  僕が一生懸命勉強して賢者になれるほどの実力を見せれば、兄さんだって僕を認めてくれるはず。  この時僕はまだ、そう思っていたのだった。
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