天使ならざる者よ

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 ***  ところが。  話は、そんな簡単なことではなかったと知るのである。  僕が天使を諦めるつもりはないと知ると、兄の執拗な嫌がらせが始まったのだ。 「え!?」  ある日の筆記試験の時は、筆箱を開けた途端中身が空っぽであることに気付いた。ペンがなければ当然、試験で答えを書くこともできない。試験中に試験管に話しかけていいルールではなかったため、僕は結局問題用紙に名前を書くことさえできなくなってしまったのだ。  またある時は、授業の内容をまとめたノートがまるごと紛失した。確かにバッグに入れていたはずなのに、いつの間にか抜き取られていたのだ。  それだけ見れば、クラスの誰かがいじめをしているかもしれないと思うことだろう。しかし、なくなった品物が寮の中、それも兄の部屋の押し入れに押し込まれているともなれば、犯人が誰であるかなんて一目瞭然である。 「兄さん、なんでこんな酷いことするの!?」  そういうことが繰り返されれば、僕だって激怒するのは当然だ。 「僕が天使になるのがそんなに悔しいの!?だったら、正々堂々僕よりいい成績を取って、兄さんが天使になればいいだけのことだろ!?」  僕だって、そんなに気が長い方じゃない。  さすがに堪忍袋の緒も限界にきて、兄の部屋に押しかけて問い詰めた。すると彼は相変わらず憎悪しかない目で僕を睨むと、それじゃ駄目だろうが、と低く唸る。 「仮に俺が今年天使になっても、来年お前が天使になったんじゃ意味がねえ」 「は!?」 「お前をこの学園から追い出さなきゃダメだっつってんだよ。退学になれば、天使になる資格も失うからな」  確かに。  僕達がいる魔法学園高等部は、高校だからこそ留年の制度もある。特に、著しく成績が悪かったり、試験に参加しなかったり出席日数が足りない生徒は留年を通り越し、一発退学になることもあり得る厳しい学校なのだ。  そもそもの話。僕と兄さんの家は、そんなに裕福なわけじゃない。留年になったら学費が払えなくなるだろう、ということは最初に入学した時から言われているのだ。つまり、留年しても結果は同じ。兄は、そこまで僕の夢を壊したいというのか。 「なんで、そこまで?……そこまで僕が憎いの?」 「ああ、憎いね」  彼はきっぱりと言い切った。 「てめえは、天使ってものが何なのか全然わかってねえ。俺はな、幼いころからこの特別な力で、神様の声も、所業も全部知ってる。天使がどういう仕事なのかってこともな。それなのに、お前も他の連中も、与えられる名誉だけ見て本質にまるで気づいてねえ。そんな奴らが軽い気持ちで天使を目指す。俺は、それがムカついてたまらねえんだよ!」 「そ、そんな……」 「何度もでも言う。さっさと学校やめて、別の人生を生きろ。天使なんか目指すんじゃねえよ、お前みたいなやつが!……お前が諦めない限り、俺はどんな手段使っててもお前の邪魔をしてやる。一生追い詰めて、苦しめてやるからな……!」
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