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「Trick or Treat!」
町中に子供たちの元気な声が聞こえる。寂れた田舎のこの町でも、西洋のお祭りはいつも大賑わいだ。
クリスマス、イースター、エイプリルフール。昨今の子供にはなじみの祭りで、賑やかにはしゃぐ姿は童心を忘れた大人たちの心を和ませる。
「行ってきまーす!」
ハロウイン行列に参加しようと、胸を弾ませて玄関を飛び出ようとした和彦に、母親が仮装のお面を渡す。
「はい、カズくん、お面。暗くなる前に、帰って来るのよ」
母親は和彦の小さな手に、ジャックオランタンのお面を渡した。和彦はにこお、と笑って頷いた。
「それからね、カズくん。タバコ屋のおじいちゃんのところには、行かないでね」
母親が小さな和彦の鼻の先に、人差し指の先をあてて注意をした。和彦は目をきょとんとさせ、なんで? と首を傾げた。
「タバコ屋のおじいちゃんは、先月奥さんを亡くしたから最近人当たりが悪いって、ママ聞いたのよ。おひげは伸びっぱなしだし、お洋服も着替えてないみたい。とても今はカズくんたちが遊びに行って、相手をしてもらえる人じゃないわ」
母親のまなざしは真剣だ。和彦は登下校の時など、タバコ屋のおじいさんに良く声を掛けてもらっていたが、暫く朝夕に店先に顔を見せないと思ったら、そんなことになっていたなんて、知らなかった。夏休みには、店先でスイカ割りをさせてくれたし、おばあちゃんにはお饅頭を貰った。和彦には祖父母がおらず、タバコ屋のおじいちゃんもおばあちゃんは本当の祖父母のように接してくれても大好きだったが、しかし、母親の真剣な様子を感じて、こくりと頷いた。
「じゃあ、タバコ屋さんのお隣の、八百屋さんなら、行っても良い?」
「そうね。あそこのおばさんはいつも明るいから、きっとカズくんたちにいっぱいお菓子をくれるわ」
和彦は安心して、うん! と頷き、玄関を飛び出した。
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