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公園にはハロウイン行列に参加する子供たちが集合していた。友達の智弘や俊介が既に居た。もちろん二人とも仮装をしており、智弘は顔に血と切り傷のペイントをしたフランケンシュタイン、俊介は頭にふさふさの三角耳を付けた狼男だ。
「よう、和彦。かぼちゃのお化けなんて、なんか迫力ないお面じゃんか。そんなんじゃお菓子もらえねーぞ」
「そうそう、俺たちみたいにさあ」
そういって俊介は、がお~、と口を大きく開けた。和彦はそれを見て笑う。
「カッコイイね! でもぼくはお母さんがくれたこのお面が好きだよ。お母さんの手作りなんだ」
にこにこと朗らかに和彦がそう言うと、智弘も俊介も、そっかー、と理解を示した。そして引率の大人が、いくよー、と声を掛け、子供たちは公園から行列を作って歩き出した。
公園にほど近いお宅から、町内を一軒一軒、チャイムを押してまわる。どの家からも、ハッピーハロウィン! と挨拶があり、個包装のお菓子を子供たちの鞄に入れてくれた。
行列が町を半分ほど歩くと、八百屋さんとタバコ屋さんの角まで来た。八百屋のおばさんは明朗快活に
「よく来たね。みんなのお菓子を、いっぱい用意してあるわよ」
と言って、子供たち一人一人にクッキーの包みを渡してくれた。ありがとお! とみなで唱和し、行列がタバコ屋の前を通り過ぎようとした時、和彦の目には店の奥に灯る、ちらちらと細かく明滅するオレンジ色の光が映った。
行列はタバコ屋の前を行き過ぎようとしている。でも和彦は、店奥の暗闇に浮かんだオレンジ色の光に吸い込まれるようにタバコ屋の店のガラス扉を潜った。
「おい、カズ!」
「和彦!」
智弘や俊介の静止の声も、和彦には聞こえなかった。店内は静寂で満ちており、その奥でよれよれのシャツを着たタバコ屋のおじいさんが、オレンジ色の小さな光に向かってなにかを話し掛けている。
「もう生きてる意味もない。お前の所へ、行きたいんじゃ」
オレンジ色の光に照らされたおじいさんの目には、涙が浮かんでいた。光は、おじいさんの言葉に呼応するかのように明滅する。
「連れて行ってくれ。もう心残りなんぞ、この世にないんじゃ」
ちらちらと、光が震える。おじいさんが光に手を伸ばした時、和彦は咄嗟におじいさんの懐に飛び込んだ。
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