天使の策略

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『石川楓様へ  突然のお手紙で驚かれていることかと思います。この手紙をあなたが読まれているということは、私がもうこの世を去ったという証です。  もしあなたに電話が繋がらなかったらそれでも私は良かったです。私の勝手な思いなので届かなければそれまでと諦めています。  あなたには謝らなければいけないことがあります。八年前、あなたを利用して高橋さんを殴らせてごめんなさい。  私は目的のためにあなたを利用しました。あなたに渡した五十万円は風俗店で稼いだお金です。返さなくても良かったんです。  私は退学してからもずっと営業許可を取ってない未成年でも雇ってもらえるお店で働きました。家が借金に追われて私には体を売ることしかできませんでした。男に殴られるのが私の日常でした。  もう私は普通の高校生には戻れないと思いました。過酷な仕事をしながら穏やかな学校生活を送ることなんてできないと思って、転校することはやめました。  母親が病気で働けなくなり、父親は私が幼い頃に交通事故で亡くなりました。借金のために私が働くしかなかったんです。  借金が完済してからも、学校にまともに通えなかった風俗嬢の私に明るい道はなかった。お店を辞めたら違法であることを知りながら働いていたことを警察に告発すると脅されました。  私を告発してもお店の営業には支障が全く出ないように警察には根回しをしてあると言われました。警察の上層部を接待するためにお店が使われることもあります。  結局、私は逮捕されることが怖くて、その後も違法な風俗店で働きました。男に暴力を振るわれて、身体中が醜い痣だらけになりました。  八年前の事件についてお話します。実はあの事件が起こる少し前に二つのことがありました。一つは親友の高橋さんから片山さんのことを好きになったと言われたこと。  もう一つは片山さんから私のことが好きだと告白されたこと。片山さんの告白に返答するのは保留にしてくれるように頼みました。  苦悩する日々が続きました。でも私は高橋さんの幸せを願って芝居を打つことにしました。私は大好きな高橋さんを殴るなんて、とてもできなかった。  だから疑うことを知らない純真無垢なあなたに頼みました。人を疑わないあなたにしか頼めませんでした。  私が生きた汚い世界では人を騙して利用することは当然のことでした。道理を外れた私からすると、あなたは輝いて見えました。  片山さんは優しい人なので高橋さんが殴られていたら必ず助けると思いました。二人には放課後、話したいことがあると嘘をついていました。結果、私の思惑通りに事態は進みました。  あなたも高橋さんも片山さんも私のことを恨んでいると思います。でも今日、二人が結婚することを知って、私の芝居がたとえ僅かでも役立ったと思いました。  私は二人が幸せになれてこれほど嬉しいことはありません。二人が結婚することができて私は自分の役目が終わったと安堵して自殺をすることにしました。  悪魔と称される人生は想像を絶する地獄でした。でも私は全く後悔していません。二人が幸せになってくれて私も幸せに生涯を終えることができました。  二人の幸せに水を差したくないので、私が亡くなったことやこの手紙のことはどうかあなたの胸の内にだけ留めておいてください。あなたを信じて、お願いします。  私はあなたにだけは真相を知って欲しいと手紙を書かせて頂きました。なぜなら私が唯一愛した人だからです』
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