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ずいずいと俺に顔を近づけて「なんで」と、小さく声を出した。
「いや、俺も電車通学だから」
電車通学が少ないわけでもない。それなのに、責めるようにぷくっと膨れた頬で問われれば、しどろもどろになってしまう。
「忘れて、お願い」
「電話?」
話してるのを見られるのが、そんなに都合が悪いんだろうか?
友達がいると言うことが、不都合?
ぐるぐると考えてみても、答えは出ない。お願いと両手を合わせて、上目遣いに見る姿に、断ることはできずこくこくとただ頷く。何がお願い、かはわからないが。
「よかったぁ」
「そんなに、気まずい?」
頓珍漢な返なのはわかってる。それでも、考えた結果、出てきた言葉は気まずい? だけだった。
千歳さんは、目をうるうるとさせながら、小さく頷く。
「だってさ、さぁさぁ、うるさいっしょ?」
「あー、言われてみれば、さーさー言ってる、かも」
言われてみれば、だ。確かに、語尾にさーさーついてる。そして、今更だけど、千歳さんが北海道弁を話してることに気づいた。
北海道から来たというのは聞いていたけど。
「クラスメイトにってわけじゃないんだけどさ、さーさー言ってるって揶揄われた事あって、気をつけてるんだけどさぁ……」
はぁああと、盛大なため息を吐き出す。こうしてみると、天使とあだ名をつけられていても同じ高校生と実感する。話してみればなんてことない、可愛いクラスメイトだった。
「気にするほど、かな?」
「本当? したっけ、よかったぁ」
完全に気が緩んだのか、意識してないように聞こえる。方言が嫌で、無口を貫いていたのかと思うとますます可愛く見えてきた。俺にとっては可愛く聞こえるよ、と伝えてしまえば引かれるだろうか?
「北見くんは、優しいね」
「そんなことないよ、普通に、そんなに気にならないよ」
「そういってもらえると、嬉しいよ」
「よかったら、連絡先交換しない? ほら、話せる人、クラスにも居た方が、千歳さんもやりやすいでしょ?」
スマホを取り出して差し出せば、千歳さんは大きく何度も頷く。邪な気持ちがあったのは、認める。俺だけが知ってる千歳さんの秘密。クラスメイトたちは知らない二人だけの……
漫画みたいな展開が、もしかしたら。なんて、頭によぎった。煩悩まみれの脳みそで、千歳さんの顔を目に焼き付ける。やっぱり、透き通るような肌が、美しいなと思った。
メッセージIDの交換をしようとスマホに表示させて、千歳さんに突き出す。
「ありがと、私ので読み取るね、って、あ」
手に持っていたスマホを見てから、絶望の表情をして千歳さんはぷるぷると震え出す。何かあったのかと思えば、スマホを耳に当ててわぁあっと話し始めた。
「押ささってなかった! 今の聞いてた? 聞いてたっしょ? 絶対言いふらさないでね!」
おささってなかった……ささって?
様子を見るに、通話を切れていなかったということだとはわかる。焦って目を丸くして喋る姿に、つい、笑い声が漏れてしまう。
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