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「なして、笑ってるのさ!」
千歳さんは、揶揄われて聞かれたくないと言っていたけど。多分、クラスメイトたちは、聞いてしまえばますます千歳さんのことを好きになると思う。
それを教えてあげない俺は、多分ずるい。
ぴしっと目の前に突きつけられた、人差し指を見つめながら、そんなことを考える。人差し指の先まで可愛いというのは、千歳さんの方がずるすぎる気もする。
「可愛いなぁって思って」
つい、うっかり、口にした言葉に、千歳さんの真っ白な肌は赤く染まっていく。
「そんなこといってもさ、何も出ないから」
ふいっと顔を逸らした耳まで赤く染まってるのは、ずるすぎる。にやけそうな頬を押さえて、耐えてみせた。
なんとかIDを交換して、友達に追加された千歳ましろという名前に胸方がなってしまう。
「北見くんには、バレちゃったからさ。話し相手になってよね」
「もちろんだよ。ってか、いいの?」
「なにが?」
「俺以外にもクラスメイトいるかもだし」
「ん……」
急にむっと口をつぐんで、スマホをぽちぽちと押し始める。たんっと強く押したかと思えば、俺のスマホが振動した。
【じゃあクラスメイトがいなさそうなところ、今度連れてって】
そんなお誘いに、俺もメッセージを打ち込む。
【いつでも、任せてください】
俺のメッセージが届いた瞬間に、千歳さんはぷっと吹き出した。そして、またぽちぽちとスマホを操作する。
【北見くんはしゃべればいいのに】
「あ、そっかごめん」
【なんもなんも】
「なんも?」
言葉の意味がわからずに、口に出せば千歳さんはまた頬を染め上げた。そして、俺をむっと睨みつけてから、ぽちぽちと打ち込む。
【大丈夫だよ、って意味! 聞き返さないでよ恥ずかしいから。じゃあまた今度ね】
メッセージを読んでから顔を上げれば、千歳さんは小さく周りに見えないように腰のあたりで手を振る。俺も手を振りかえして「またな」とだけ、言葉にした。
* * *
放課後、今日は千歳さんと待ち合わせを約束している。こっちのカフェとか行ったことないから、案内して欲しいとのことだった。
まるで、デートだ、なんて浮かれてはいない。うん、そんなことはない。
できるだけクラスメイトに会わないところが良い。とのことで、俺の最寄駅で待ち合わせだ。クラスメイトが居ないわけではないが、だいたいはみんな高校近くで遊んでるから会う可能性は低いだろう。
「待たせちゃった?」
ふわりっと走って、着地する。千歳さんの姿は軽々としていて、空を飛んでるのかと錯覚しそうだった。
「やっぱさ、遅かった?」
じっと下から見上げられて、慌てて首を横に振る。つい見惚れて黙り込んでしまった。
「待ってない、待ってない」
「よかったぁ、怒ってるかと思ったしょ。待たせてごめんね」
「なんもなんも」
メッセージで知った北海道弁を披露すれば、千歳さんはぷくっと頬を膨らませる。そして、ドンっと肘を俺にぶつけて「もう!」と少しだけ怒った。
そんな姿すら可愛いのは、ずるすぎると思う。ぶつかった俺の肘あたりを見て、困ったように千歳さんは眉毛を下げる。
「あれ、あおたんできてるよ」
「え、うそ」
「あおたんは通じるんだ?」
「俺で試してる?」
「うん、だって、話せるの北見くんくらいだし」
嬉しいような、なんとも言えない気持ちを飲み込んで、素知らぬ顔をしてみせる。あおたん、も方言なんだろうか。
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