転校生の無口な天使は、俺にだけおしゃべり

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 つんつんっと、俺のあおたんを指で突く。いたずらっ子な一面に、クラスメイトはそれが知らないんだなと思うとじわりと優越感が沸いてしまった。  あれ、指先に絆創膏。 「ってか、千歳さんこそ、指」 「包丁でちょっとぴってやっちゃってさ」 「包丁」 「んでね、サビオ貼ってきた」 「待って待って」 「ん?」  北海道弁の洪水に、千歳さんの言葉を止める。包丁のイントネーション、それは、園長とか村長のイントネーションだろ。  千歳さんはわかっていないようで、不思議そうな顔をしてる。そして、あっと閃いた顔で「ばんそーこー!」と言い直した。そっちもだけど、そっちじゃない。 「包丁」  言い直して見せれば、目を丸くして口を両手で押さえた。千歳さんには悪いけど、俺しか知らないことが増えていくのが嬉しくて仕方ない。それに……隠す必要無いと思うんだよな。  みんな、聞いてみたら可愛くてますます、好きになると思う。俺みたいに。 「もう、行こ!」  ぐいっと俺の腕に、自分の腕を絡ませて引っ張る。本当に、デートみたいになってきた事実に、俺の方が宙に舞ってしまいそうだ。 「どこ連れてってくれの?」 「カフェなら、パンケーキのところかなって」 「パンケーキ? 好き! どこ?」 「あっちの方」 「行くべ」  ぐいぐいと引っ張って、俺には隠す気のなくなった北海道弁を口にする。だから、俺は口の中で勝手に方言を反芻して噛み締めた。  お店の中は、ざわざわとしているが高校生はあまり見当たらない。まぁ、この駅の近くには高校もないし、当たり前かもしれないが。  遭遇するとしたら、俺と同じ中学出身の子達くらいだ。そんなに多い人数でもないし、気を張る必要はなさそうだった。  注文を済ませて、二人で向かい合って座る。それぞれ違う味のパンケーキを注文した。俺はバナナキャラメル。千歳さんはイチゴホイップ。  お冷をちびちびと飲みながら、俺の方を伺う。何を言いたいのかはわからなくて、首を傾げてみればもごもごと口を動かした。 「やっぱさ、変だと思う?」 「そんなことないよ」 「本当に?」 「それに、ほとんどわかんないし」  ()が語尾によくつくところ。あとは、時々のイントネーションくらいだ。八割ぐらいは、気づかない気がする。いや、さーさーは、確かに言ってるけども。 「だけどさ、さーさーうるさいとか言われたりさぁ……」  今の言葉だけで、さが五個も入ってたぞといえばきっと傷つくから言わない。 「可愛いけどな」 「なっ!」  顔を真っ赤にして、ぷくっと膨れる姿は鳥みたいで可愛い。北海道の鳥……シマエナガを昨日たまたまSNSで見かけたのを思い出して、千歳さんに聞いてみる。
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