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「シマエナガ知ってる?」
見た瞬間、千歳さんにぴったりの鳥だと思った。まっしろでふわふわで可愛い。雪の妖精やら、天使みたいな鳥と、称されている。
「シマエナガ知ってるよ、いつのまにかすごい人気になってるしょ」
「見たことあるの?」
「あるわけないっしょ」
「えっ」
「普通の街中には居ないからね」
それもそうか。こくんと頷いて、肩を落とす。せっなく共通の話題ができそうな気がしたのに。ドキドキのせいか、空回ってる気がした。
そんな話をしていれば、お互いのパンケーキが目の前に届く。たっぷりのフルーツに、メープルシロップが掛かって、まんまるとしていておいしそうだ。
千歳さんは小さく切り分けて、俺のお皿の上に一口分自分のパンケーキを乗せた。
「ばくりっこしよ」
「ばくりっこ……」
なんとなく察せるようにはなってきたけど、ばくりっこは難しい。千歳さんは、くるくると俺と自分を交互に指指す。
「交換ね、おっけおっけ」
慎重に慎重に、形を崩さないようにナイフを入れる。パンケーキだなんて、ほぼ食べたことがない。女の子が好きそうなものという偏見で選んだことを、この時だけは後悔した。
「ちゃっちゃっと交換しようよ」
ばくりっこと言うのは、やめたらしい。ちょっとずつ方言を矯正していくつもりだろうけど、俺的にはずっとそのままで居て欲しい。でも、そうなったら俺となんて出かけてくれないだろうことは分かってるから。難しいな。
バナナキャラメル味を切り終えて、そっと千歳さんのお皿に乗せれば嬉しそうに頬を綻ばせた。一口齧って、「おいしいー!」と嬉しそうに呟く。
「なまらは、言わないんだな」
「内地の人は、それしか知らないの?」
「内地?」
「こっちの人」
千歳さんと話すたびに、知らない北海道弁を知っていく。知ってるのなんて、なまらと、べや、くらいだったから当たり前なんだけど。
そんな特別感だけで、お腹はいっぱいだ。バナナキャラメルのパンケーキはまだ、半分も残っている。
「千歳さんまだ、食べれる?」
こくこくとキラキラした目で頷くから、お皿をそのまま空になった千歳さんのお皿とばくりっこした。
「いいのー? うれしい!」
「俺、食べきれそうにないから、食べてくれたら嬉しいよ。むしろ、ありがと」
「なんもなんもー!」
可愛い。そういうイントネーションなんだ、可愛い。脳内はもはや語彙力を失って、可愛いしか出てこない。学校の天使とデートしてるところを見られたら、俺の方が危ないかもしれない。
キョロキョロと周りを見渡せば、口の横にホイップクリームをつけて千歳さんは首を傾げた。
「誰か知り合い居たの?」
「あ、ううん、居たら、俺が刺されそうだなぁって」
「そんなことないっしょ」
「クラスメイトに見られたらマジで刺される」
「大げさすぎだべ〜」
気が緩んできたのか、自然と出てくる語尾に、刺されそうな恐怖感と、癒されるほのぼの感が、頭をおかしくしていく。
「あれ?」
聞き覚えのある声に、ハッと顔を上げれば、同じ中学出身の女の子が立っていた。一人で、カフェに来たらしい。千歳さんは顔面蒼白で、いつもにまして、白くなっている。
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