9人が本棚に入れています
本棚に追加
「北見くんはさ、どう思う?」
「どう思うって、方言? 可愛くて好きだよ」
「そっちじゃなくてさ、私のこと?」
どきっと心臓が高鳴る。痛くなった胸を押さえて、好きだよとは答えられそうに無い。
「めんこいと、思ってますよ」
裏返った声で返せば、千歳さんは「ふーん」と何回も言葉にしてからお水を飲み込んだ。頬が赤く見える気がするのは、気のせいじゃない?
「俺のことは、どう、思いますか?」
問いかけてみれば、千歳さんはパッと立ち上がって、また唇に白い人差し指をくっつけた。
「ナイショだべさ」
「それは、ずるくない?」
「またさ、こうやってさ、どこかさ、二人で出かけようね」
千歳さんは、真っ赤な耳を俺に見せつけて、パッと逃げていく。追いかけながら、おかしくなる鼓動の音を押さえつける。
それは、期待して良いってことだよな?
たまたま、駅で電話してるのを聞いてしまっただけなのにそんなことあって良いんだろうか。
「したっけね!」
ばいばいと手を振る千歳さんに、追いかけるのをやめて俺も「したっけな!」と大きい声をあげた。急に立ち止まって、千歳さんはスマホを操作し始める。
不思議に思っていれば、俺のスマホが振動した。
【発音が、違いやす笑】
とだけメッセージが書かれていた。違いやす、誤字してるし。
【文字が、違います笑】
と送り返せば、千歳さんは俺の方を一瞬見てから、べーっと舌を出す。ころころと変わる姿にますます魅了されてしまってる。俺は千歳さんの方言を知ってから、振り回されてばかりだ。
【押ささっただけ!】
届いたメッセージに、くすりと笑ってしまう。また、ささった。ささった、という言い方もめんこくて、好きだなぁと思ってしまう。それくらいには、魅了されてしまっていた。
返事をする前にもう一通届く。開いてみれば、【あずましく思ってるよ、調べてみてよね】と書かれていた。
小さく手を振って去っていく背中を見送ってから、スマホで検索する。
あずましい:心地よい、安心する
そんな言葉が出てきて、つい頬が緩む。やっぱり、天使というよりも、普通の女の子みたいだな。
あずましいは、きっとわざと分かりにくく使ったんだろう。恥ずかしがり屋で、いじっぱりなところが千歳さんらしい。いつのまにか、らしいと思ってしまう程度には、俺は仲良くなれているのかもしれない。
気づけばもっともっと、千歳さんの声を、話を聞きたくなった。
<了>
最初のコメントを投稿しよう!