ハロウィン・ナイト

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ハロウィン・ナイト

いつ、その夢を見ただろうか。  今日はハロウィン。800年前なら、きっとこの日のためだけに胸を弾ませ、眠れることはなかっただろう。でも、それは800年前の話であり、現代…つまり今の私にはハロウィンなどばかみたいないらない行事で普通の日だ。 私はマリー。マリー・ピュラリア・パブコップ。さらさらの赤毛でサクラのように染まるピンク色の瞳をしており、頭にはリボンを掲げている。そんな派手な外見の私は、一見すると高校生だと間違えられる。いや、絶対に間違える。なぜなら、私は【外見だけがコウコウセイの、817歳のふけふけばあちゃん】だから。 ハロウィンがつまらない行事だと思えるのは800年も生きているからハロウィンを普通だと感じてしまうのもあるが、それとは裏腹に別の理由もあったりする。この場に合わなくてすまないが、残酷な理由だ。それは簡単。よくマンガで見たことがあるでしょう?それは_その理由は_この日にわたしの大切な人を全て奪われたから。 外では、子どもたちの「とりっく・おあ・とりーと!!」と騒ぐ声。 大人たちの「こら、危ないわよ」なんて注意しながら、「まあいいよ」なんて矛盾を通しちゃう弾んだ声。 老人さんたちの「最近の若者は元気じゃ」「ハッピーハロウィン。」という若者世代を見守る温かい声。 そして…老けたばあちゃんの「めんどくさ」といううざい声。無論、私のことなのだが。 「君に、もっと、ハロウィンを楽しませる魔法をかけてあげる」 …その奪われてしまった言葉を、奪われたはずのコトを何回夢見ただろうか。もういないのに期待してしまう。これならいっそのこと、ジャック・オ・ランタンに彷徨ってくれてもいいのに。もう、ハロウィンなんて辛いことばかりだ。明るい若者達の声を、横通りしながら皮肉な声を上げる。 「Halloween…とっても皮肉な行事さん。さっさといなくなってしまえばいいのに。」 朝ご飯を作るためにかぼちゃを切る。ドス。重たくって、大きな、低い音を出してそのかぼちゃは真っ二つに折れた。その時だ、  「ねえマリーちゃん。何してるの?」 ふと軽い、小さな、高い音が聞こえた。そこにいたのは笑顔で微笑んでいて_わたしとは対照的な深く飲み込まれてしまいそうな青髪に純粋な濁りのない水色の瞳をしている。君_ロンテリア・コンティ・プラトだった。 「なんでここにいるの、ロン!?Hadesuはどうしたの!?」 「言っとくが、これでも僕はおばけだ?Hadesuぐらい通り抜けとるよ?ハハハ」 軽く弾んだ声、あたりは暗い曇だったはずなのに、いつしか天使の梯子が登っていた。 「いっしょにお遊びしないかい?」 黒く、ハロウィンの夜の闇よりも暗い私の心をまたもや洗浄してくれた。本当に、ずるい。そう思いながら、わたしたち_亡霊と長く生きる老けたばあちゃん_は若者の弾んだ声をすり抜けながら街を軽やかに走っていった。 一日が、たち二十四時間後。もうこの世は寒さの際立つ、重い11月に差し掛かろうとしていた。 「はあ_遊び疲れた、今日はあんがと。」 「ううん、別に…大丈夫よ。こちらこそ」 ありがとう。そう言おうと思ってたのに、言葉が喉につっかえて出てこなかった。だって、もう彼はいなかったから。近くの明るすぎるガス灯の光に目を細めながら、今の時刻を見る。今の時刻は__11月1日0:00。終わってしまった。ハロウィンが、終わってしまった。誰もいない。一日前は人々の笑い声やら喜ぶ声やらトリック・オア・トリートやらハッピー・ハロウィンの声で埋め尽くされていたはずのとおりにはもう誰もいなかった。目尻が熱い、その瞬間唇に塩っぽい味が広がる。やっぱり、幻想だったんだ。全て。 「そうやって、諦めるのはまだ早いと思うな。」 「え?」 上を見上げると、そこには一人の少年がいた。それは…彼にそっくりだった。 「諦めるのはまだ早いって…何を言っているの?」 「えぇ〜、だってハロウィンは来年もあるわけでしょ?だから、」 また会える。そう言おうとしたんだよね、貴方は。でも…これまで、会えなかったんだから。今年は私が彼とあって、800年の記念祭だ。だからこそ、会えただけであって来年はもう会えない。何もかも、もう遅い。 「…遅い?そんなことないでしょ?君がもう200年生きたらいい話だ。そんな会えないとか遅いとかで諦めてたら、トリック・オア・トリート__お菓子をくれなきゃいたずらするぞ?だなんて通用しないでしょ?お菓子なんて、諦めたらもうもらえないし、収穫も一年は待たなくてはいけない。そんなことで諦めるとか…そんなことで人生諦めたら、もう生きることなどできないんだヨ?」 とても疑問的に、首を傾げながら彼はいう。お菓子_お菓子は、たしかにそうかも知れない。しかし、彼と会える確率はそれよりもほど高い。私は、強く言い返してやった。 「じゃあ、貴方に何ができるというのかしら?私を一体、どこまで諦め上手になれなくできるの。」 「そりゃあ。もう。1000倍?幻想だとしても、偽りだとしても。彼、に会えたことは君の人生を変える指針であることに間違いない。彼の役目はハロウィンで、ボクの役目はその収穫。本当に、彼の思い、無駄にする?」 したくない。私だって、したくない。収穫、という言葉を使った。それは、何だったのかわからない。でも__それが、彼を支えれるのならば。もう一度、彼に心で通じあえたなら。迷い、路頭に迷った末。私は彼が、差し伸べてきた手を握った。その時、ほのかにジャック・オ・ランタンの光が揺れたのは_気のせいだろうか? 「貴方の、名前は?」 「ボクこそは異世界_ガーデン・カントリー_を支配するもの。そして亡霊、ロンテリアの意思を次ぐもの。レン・ロリーティア・ガーデンさ。」 これが、私のハロウィン。そして、人生を変えてしまった、不可思議な日の冒険譚である。 いつ、その夢は見ているのか?私は、今でもその夢を見続けている。そう_いつまでも、長寿を全うしている今でも_。
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