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「……僕、今日死んじゃうんだな」
「……うん」
遠くないいつか、そんな日が来るのはわかっていた。
こんなハプニングは予想外だったけど、とても幸せな最期なんじゃないかな。
「最後にお父さんとお母さんに、お別れだけ言わせて」
僕は病室の隅で祈るように抱き合っている両親を、細腕で抱き締めた。
魂だけの状態じゃ通り抜けちゃうみたいなので、形だけ。
「丈夫に生まれなくてごめん。ずっと心配ばっかりかけて、苦労ばっかりかけて……でも、僕はふたりのおかげで幸せだったよ。ありがとう」
ずっと考えていた別れの言葉が両親の耳に入ることはない。
けれど、どうしても自分で言いたかったんだ。
病室のサイドテーブルの引き出しに手紙を残しておいたから、僕が死んだ後で読んでくれるだろう。
振り返ったらあいらが涙ぐんでいて、僕たちはふたりで魂の紐を切った。
ああ、本当にその瞬間に心臓って止まってしまうんだな。
僕はそれ以上見ていられなかった。
悲しむ両親も、力を落とす病院の人たちにも申し訳ない気持ちになってしまうからだ。
いつも外を見ていた病室の窓から抜け出すと、ひゅるりと風が通り抜ける。
空調された病室の中では感じることの出来なかった外の世界だ。
「迎えに来てくれたのがあいらで良かった。おかげでちっとも怖くないや。ありがとうな」
体から自由になった僕は、ふわふわと漂う。
あいらは僕の手を取って、幸せそうに微笑んだ。
「ううん。響ちゃんこそ、私を信じていてくれてありがとう。ホントは嫌われちゃっていたらどうしようって、少し心配だったの。だからなかなか仮面外せなくて……試すようなことしてごめんね」
僕は少し後ろめたかった。
完全に信じきれていたわけじゃない。
僕はあいらをただ信じたかっただけなんだ。
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