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死神天使の微笑んだ日
熱くも寒くも苦しくもない。
魂だけというのは少し頼りないけれど、とても自由になった気がした。
なんだかこの世界の一部になったような、自然と一体になったような気持ちだ。
不思議と風の流れだけは感じるが、突風に煽られたりはしない。
あいらが手を繋いでいるから、行き先に迷うこともなかった。
足元でどんどん小さくなる町を見て、この世界はなんて広いんだろうと思う。
僕はまだこの世界を知らなすぎる。
「それで……響ちゃん、一緒に天使になってくれる?」
気持ちなんか、もう決まっていた。
「仕方ないな。すぐに鎌を取り上げられちゃうようなマヌケなあいらを一人にはできないもんな」
そんなこと言いながら、本当はもっと一緒にこの世界を見てみたいだけなんだけど……そこはまだ恥ずかしいから内緒だ。
「うん! 今度こそずっと、ずーっと一緒だよ!」
僕らは風の中を空に向かって飛んでゆく。
今度こそ離れる事のないようにしっかりと互いの手を握って。
僕を迎えに来たのは、死神にしか見えない天使。
その天使は黒いローブをまるで翼みたいにはためかせて、物々しい大鎌を手に輝く太陽よりも眩しい笑顔を見せる。
死神姿の天使が青空に微笑んだその日、僕の魂は天使になるべく空へと旅立った。
了
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