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「あなたがこれをしてくれたの?ありがとう。とてもいい香り。」
広場の片隅で人々が気味悪がる様子を見ていた堕天使は、しばし困惑していた。彼の存在に感謝する者など、いままでいなかったからだ。
「あり…がとう?」
堕天使はその言葉を即座には理解できなかった。遠い昔、まだ堕天使になる前に人間からかけられたこともあったが、もう、何百年もそんな言葉をかけられていないため、その意味をすっかりと忘れていた。しかし、少女の「ありがとう」は純粋で、まっすぐに彼の心に届いた。それが今の堕天使にとってその言葉はすごく心地の悪いものであった。
「今すぐここから立ち去らねば」その思いに掻き立てられるように、堕天使はその場から立ち去ろうとした。しかし、少女はその動きを敏感に察知した。
「お願い、行かないで。」
「え?」
堕天使は、まさか自分が呼び止められるなどと思っていなかったため、ひどく驚いた。
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