3人が本棚に入れています
本棚に追加
目が見えなくなってからも、両親は彼女を広場に連れてきて、彼女の心が安心できるようにと努めていた。春には花の香りを楽しませ、夏には風に乗って運ばれてくる木々のざわめきや、秋には木の実のかさかさとした音を一緒に聴いた。彼女にとって、その広場は視覚がなくとも、自然の豊かさや両親の温もりが感じられる場所であり、いつも愛に包まれた思い出が蘇る、心の拠り所だったのだ。
しかし、数年前に両親が事故で亡くなってから、彼女はその場所を訪れることが少なくなった。人々の目が見えない自分への陰口が気になったし、両親が亡くなりたった独りになった自分が一人で行くには、あまりに寂しさが募る場所だった。春の花の香りや、秋の風の冷たささえも、両親を思い出させてしまう。その度に、彼女は胸が締め付けられるような痛みを感じていた。
それでも、ある夜、噂を耳にした彼女は、久しぶりにその広場に足を運んだ。すると、あの頃と同じように、花の香りが広場中に漂っていた。まるで、何も変わっていないように。
最初のコメントを投稿しよう!