堕天使の困惑

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姿を見せることはなくとも、花の香りを漂わせ、夜風に乗って囁くようにして彼女の心に静かに語りかけた。少女はその存在に気付いているのか、時々微笑みながら話し始めた。 「今日はとてもいい日だったの。ありがとう、来てくれて。」 彼の返事はなかったが、少女はその沈黙さえも優しさとして受け止めていた。彼女が話し続ける限り、堕天使は立ち去らず、そこに居続けた。どこか居心地の良い時間が流れた。少女の小さな声は、堕天使の耳に心地よく響いた。 「あなたがいると、暖かい気持ちになるわ。」 その言葉に、堕天使は胸がざわつくのを感じた。彼にとって、それは理解しがたい感覚だった。「暖かい」と言われることが、彼の中の常識とはまるで逆だったからだ。彼は人々に恐れられ、不安を撒き散らす存在のはずだった。しかし、少女の純粋な声に触れるたび、自分の「堕天使としての役割」が揺らいでいくのを感じていた。 そんな彼の困惑と少女との交流は、やがて彼の心に小さな変化をもたらし始めるのだった。
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