告解

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 おれは表情では隠したが、内心ではそこそこ驚いていた。おれの中での姉とは、振られた男のことについてこんなふうにあれこれ考えるようなタイプの人間じゃない……と思っていたから。 「本当のあたしは、ただの臆病者だよ。お酒も煙草も、そんな自分の弱さを隠すために都合よく使える道具でしかないの。もしも歌とか絵とか小説で代用できるのなら、きっとそうしてた。たとえアプローチしたり告白したりしても絶対に結ばれない相手を想って夜に泣いてしまうくらいなら、あたしのことを想って泣いてくれる人と結ばれたほうが幸せだなって思った。だから結婚することに決めたの」  つまり姉の本当の想い人とは、世間一般的に結ばれることが好ましからざる関係性であり、振られたらずっと気まずい関係を引きずり続けなければならない、即ち切っても切れない関係でもある。姉はそれを恐れたからこそ、向こうから寄ってきた男の手を、渡りに船とばかりに掴んだのだという。  関係性。世間体。切っても切れない関係。  ふうん。  もうここまで来たら、最後まで訊かないと帰れないよな。  おれは腹を括った。 「誰のことなんだよ、それ」 「うん? うちの部署の上司」  この瞬間、目の前の川が真っ二つに割れたとしても、ここまでの衝撃はなかったかもしれない。  なんだよ、それ。  だいたいあるだろ職場の上司なら。まあ相手がもう所帯持ちだったら確かにないよな。世間的にも認められないよ。なんなら次は裁判所で会いましょ……っていうことにもなりかねない。でも別れて引きずるくらいなら転職すりゃいいじゃねえか。  なんだよ、それ。 「……おれじゃねーのかよ」  おれというピエロが演じる、最低最悪のステージが終わりを告げた。ジャグリングの玉はひとつもキャッチできず床に散らばり、バルーンアートの風船を片っ端から破裂させ、一輪車でバランスを崩して観客席に突撃するレベルの最悪さだ。  おれは完全に、姉も実はおれのことを想っていたのだ……と勘違いしてしまった。実際はそうではなかったと分かった今、もはやどんな顔をしてここに座っていたらいいのか分からない。 「なんだよ、それ。おれだけ馬鹿みてえだ」  というか、これじゃいつまでも引きずらなきゃいけないのはおれの方じゃないか。ああ、言わなきゃよかった。片想いなんて胸に秘めとくくらいが一番気持ちいいのに、どうしていちいち要らないことばかり口に出してしまうのだろう――。  すると。 「ほんと、あんたそういうとこ昔から変わんないよね」  姉はおれの言葉に引くでもなく、けらけらと嘲笑うこともなかった。
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