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すると衛兵達が沸き立ち
「あんな大きな水の塊を生み出せるなんて、さすがアーヒル様。そして、その力を授けられるリン様は素晴らしい」
キラキラした目で僕とアーヒルを見ている。
「以前よりリン様の力は偉大でしたが、蘇られてから増幅なされたようですね!」
僕をこちらの世界の空木鈴音と信じて疑わない彼等に、段々申し訳無くなって来る。
「すまない。リンは昨夜、俺のせいで身体が大分辛いようなんだ。そっとしておいてくれるか? それから、食事はリンと部屋で取るから持って来てくれないか?」
ニッコリ微笑んで言われ、何故か僕だけが赤面している。
衛兵達はビシッと敬礼すると
「かしこまりました! お伝え致します」
と答えると、一礼して部屋を後にした。
僕とアーヒルだけになった部屋で、僕達は顔を見合わせて吹き出した。
「空木殿、やり過ぎだ」
「ごめん、ごめん。僕も、凄い威力にビビったよ」
そう言いながらひとしきり笑った後、アーヒルも手のひらに意識を集中して
「ウォーターボール」
と呟くと、ドデカい水の塊が現れた。
「おぉ! アーヒルも凄い!」
僕が手を叩いて言うと
「空木殿……、あなたはどれ程の魔力量を持っているのやら」
呆れた顔をされて、思わずてへぺろしてみたが……。
待て! お前とヤラなきゃ、もっとあったって事だよな? 僕の魔力量。
ジト目でアーヒルを見ていると、アーヒルはウォーターボールを浴室で壊すと
「そこで……だ、空木殿」
真顔になって僕と向き合って座ると
「元の世界に帰るまでの間、記憶を失くしたって事でこの世界のリンのフリをして欲しい」
そう言って頭を下げた。
「それは……どういう事?」
驚く僕に、アーヒルはそっと僕の手を握ると
「この世界は、空木殿やリンの居た平和な世界とは違う。親兄弟だろうか、自分の私利私欲の為に平気で殺し合いをするんだ。空木殿がリンとは違うとバレたら、貴方の争奪戦が始まってしまう。勝手かもしれないが、俺はそれを避けたいんだ」
そう呟くと
「リンの犠牲で、やっと……やっと平和になり始めたんだ」
アーヒルは鉛を吐き出すかのように、苦しそうに話した。
僕が黙ってアーヒルの顔を見つめた後
「分かった。それが、この国の平和になるんだよね?」
と聞くと、アーヒルは申し訳なそうに頭を下げて
「本当にすまない。それに、これは空木殿を守る事にもなるから許して欲しい。その代わり、必ず帰る方法を探してみせるから」
真剣にそう返して来た。
僕はアーヒルに頷き
「分かった。それでこの国が平和になるなら、僕はこの世界の空木鈴音で居るよ。でも、僕もこの世界の空木鈴音を復活させてみせるからね」
そう言って、頭を深々と下げるアーヒルの肩にそっと触れた。
「空木殿……ありがとう」
うっすらと瞳に涙を浮かべたアーヒルの為にも、僕はこの世界の空木鈴音を必ず蘇らせようと決意した。
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