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儀式
「空木殿、そのまま快楽に身を委ねて……」
甘く耳元で囁かれ、僕は頷きながらソイツにしがみついた。
唇から顎へとソイツの唇が移動して、ゆっくりと、首から鎖骨、胸へと下りて行った。
「やっ……」
胸を吸われて、ビクリと身体が反応すると
「大丈夫だから、怖がらないで……。空木殿、気持ち良いなら声を出して構わない」
優しく囁くと、頬の頬をそっと撫でてくれた。
僕が頷きながら、優しく触れるソイツの手のひらにキスを落とすと、ソイツは僕の肩に額を落とし
「空木殿……、それは反則ですよ」
と呟き、切なそうに顔を歪めた。
「すみません。ここからは、リンと呼ばせて下さい」
ぼんやりとした意識の中、ソイツの言葉に頷くと
「空木殿も、アーヒルと呼んでくれませんか?」
掠れた甘い声で耳元に囁かれ
「アー……ヒル」
と囁いた瞬間、白い『ガアガア』と鳴く鳥を思い出してしまった。
「お前、アーヒルって名前なのか?」
「? はい」
必死に笑いを堪えたが、白いアヒルと言うより、黒豹という感じのソイツの名前がツボに入ってしまった。
「ブッ……あはははは」
突然笑い出した僕に、ソイツ……アーヒルが面を食らった顔をしている。
「悪い、悪い。僕達の世界で、アヒルって鳥が居てさ。あんたとのギャップが、ツボった」
ゲラゲラと笑う僕に、アーヒルはフワリと優しく微笑むと
「俺の名前で空木殿が笑顔になるなら、幾らでも笑って下さい」
優しい笑顔に、再び胸がキュンと切なくなる。
……これはあれだ。
吊り橋効果ってヤツだ。
「アーヒルって、男前だな」
「なんですか? 突然」
「いやさ、普通は自分の名前を笑われたら怒るだろう?」
「まぁ、そうですね」
「それを、あんたは幾らでも笑えってさ」
俺の言葉に、アーヒルは小さく笑うと
「それは、空木殿だからですよ」
そう答えると、頬にキスを落とし
「リンの始祖様である空木殿だから、です」
と呟いた。
「チュッ」と音を立てながら頬にキスを落とし
「あなたになら何を言われても、何をされても怒りません」
そう続けた。
でも、それは僕がこの世界のリンに似ているからなんだと、改めて突き付けられた気分になった。
「なぁ、お前にとってリンって奴はどういう存在だったんだ?」
興味本位でした質問だった。
すると、アーヒルは一瞬息を飲み込むと
「俺の全てだ」
とだけ答えた。
その時、何故かズキリと胸が傷んだ。
「それなら、こんな事したら……」
僕の言葉は、アーヒルの唇で塞がれた。
「これは儀式です。空木殿は、紡がれる快楽に身を委ねて下されば良いのです」
子供をあやすように頭を撫でられ、僕は切なそうな顔をするアーヒルにそれ以上は何も言えなくなってしまった。
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