35人が本棚に入れています
本棚に追加
琴音はしばらく黙り込んだ後
「怒らない?」
と、聞いて来た。
この時の僕は、琴音が描いている漫画は男女の絡みがある作品なんだろう程度に考えていた。
「読んでみないと分からないけど、取り敢えず読ませて」
そう言うと、琴音の部屋に連れて来られた。
そして手渡された薄い本の表紙には、どう見てもガタイの良いイケメンな男にバックハグされて微笑む僕の絵が描かれているでは無いか……。
まさか……とは思ったが、ページを開いて卒倒しそうになった。
主人公の空木鈴音が仕事で砂漠の国に行き、その国の王であるアーヒルに一目惚れされてしまう。
紆余曲折を乗り越え、二人は結ばれるのだが……東洋の神秘とされ、主人公は砂漠の国の宰相やらアーヒルの座を狙う王弟サーシャに狙われ、拉致監禁やら輪姦されてしまう。
最終的にアーヒルが助け出し、毎回、最終的にはアーヒルに抱かれてめでたしめでたしで終わるのだが……。
裸体が見たいという意味が、ようやく理解出来た。
「琴音、お前……」
既に3冊発売されていて、どうやら凄い人気作品らしい。
「あのね、他にも何冊か描いていたんだけどね……。お兄ちゃんをモデルにして描いたこの作品がバスってね、今や人気同人誌作家の仲間入り出来たの」
必死に訴えられたのだが、僕がモデルでBL漫画を描いていたのを知ってショックだった。
「友達がうちに来た時、お兄ちゃんの写真見て、絶対にBL漫画の主人公に向いてる!って言われたの。それで描いたら、本当に人気出ちゃって……」
俯いて話す琴音に
「名前を変えるとか、やりようがあっただろう?」
頭を抱えて呟くと
「ほんの出来心だったの。でも、まさかお兄ちゃんが主役の話がこんなに人気が出るなんて思わなくて……。お願い! このまま続けさせて!」
必死にお願いする琴音には申し訳無いが、知ってしまった以上、首を縦には振れない。
「最新刊ってあるのか?」
本棚にあった「砂漠の国で愛を紡ぐ」と書かれたタイトルを手にして、どうやら最新刊らしき本を手にした。
本の中の僕はひ弱で、やたら無抵抗で敵方に拐われては強姦されまくっている。
そんな僕を、主人公のアーヒルが敵をなぎ倒し助け出す。
王道のラブストーリーと言えば、王道だ。
でもさ、ノーマルな人間がすんなりアーヒルを受け入れる事態、どうかとは思うけど……。(そこは漫画という事で、目をつぶろう)
最新刊を開き、凄まじいストーリーに何度か気を失い掛けたけど、最新刊がちょうど、主人公が邪宗の教祖に拐われ、生贄として信者達に輪姦されている所に、アーヒルが乗り込み主人公を助け出す。
しかし、戦いの最中に紛れて、王弟サーシャの放った毒矢に、アーヒルを庇って撃ち抜かれ死んだシーンで終わっていた。
「キリが良いから、これで終わりにしなさい」
というと、琴音は涙を浮かべて
「えぇっ! ダメだよ。りんはここで神子に目覚めて息を吹き返して力を発揮するんだよ。アーヒル、可哀想じゃない!」
そう叫んだ。
いや、可哀想なのは勝手にモデルにされた僕だから!
「とにかく、こんな作品はダメだ!」
「読ませたら、モデルになってくれるって言ったから見せたのに!」
「考えると言っただけで、モデルになるとは言っていない!」
「そんなの酷い!」
泣き出した琴音。
いや、泣きたいのは僕の方だよ。
最初のコメントを投稿しよう!