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結局、琴音と話し合い、僕がモデルの漫画は打ち切りにしてもらう事になった。
実際、この後が大変だった。
snsのZで、漫画打ち切りのお知らせをした所、大炎上したらしい。
我が家にも、琴音のリア友が僕を説得しに来たが、僕は首を縦には振らなかった。
そしてZのトレンドでも、「♯砂愛バドエン」「♯突然打ち切り」「♯りんきゅん死」「りんきゅん葬儀」等など……大変な騒ぎになったらしい。(なんでも、ファンの間で葬儀が行われたらしい。)
そんなある日の事、俺の部屋に「砂漠の国で愛を紡ぐ⑤」と書かれた本が置かれていた。
表紙絵は無く、真っ白い本に文字だけが書かれていた。
(琴音の奴、性懲りも無く!)
文句を言ってやろうと本に手を伸ばした瞬間、勝手に本が開いて物凄い光が俺を包み込んだ。
「お兄ちゃん、何? この光!」
ドアが開いて、琴音と目が合ったその時だった。
世界がぐるりと回転して、僕は物凄いスピードで落下していた。
「うわぁぁぁ~~~~!」
上空のかなり高い場所から、地上へと真っ逆さまに落ちている。
その時、ふと思った。
これはきっと……バドエンで妹のBL漫画を強制終了させてしまった僕への、腐女子達の呪いなんだと……。
(さようなら……短かった僕の人生)
段々と異国情緒溢れた街並みが見えて来て、見知らぬ景色が広がった。
その時
「リン!」
異国訛りではあるが、誰かが僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
すると下から風がふわりと僕の身体をゆっくりと浮き上がらせて、落下速度を落として行く。
それはまるで、鳥の羽根が宙を舞うように緩やかに僕の身体が地上へと舞い降りて行く。
そしてそんな僕の身体を、誰かが優しく抱き留めた。
驚いて見上げると、長い漆黒の髪を後ろで一つに束ね、褐色の肌に似合う彫りの深い、身震いする程に綺麗な顔をした男の黄金の瞳が信じられないものを見るように見開かれて僕を見つめていた。
そして僕を軽々とお姫様抱っこしているこいつは
「リン! 本当にリンなのか?」
低いイケボな声で叫ぶと、僕を宝物のように抱き締めた。
「…………マジか」
僕は今、妹の漫画の世界のヒーローであるアーヒルの腕の中に抱き留められていた。
神様、仏様……どうか、これは夢でありますように。
僕は現実逃避するが如く、そいつの腕の中で意識を手放した。
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