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「あのさ……、あんたはもう一人の僕の恋人だったんだろう?」
「あぁ……」
「匂いを着けるって、浮気になるんじゃないの?」
この生暖かい視線が居心地悪くて、思わず意地悪な質問をしてしまうと
「浮気? この国は一夫多妻制だからなぁ……」
考え込む仕草で言われ、僕は唖然としてしまった。
「待て待て! お前の国が一夫多妻制だろうが、僕は嫌だよ。僕は、僕だけを愛してくれる人じゃなくちゃ嫌だ」
「ほぅ……」
「ほぅ……じゃねぇよ! とにかく、嫌なものは嫌だ!」
僕はそう叫び、ソイツの腕から飛び出した。
「匂いって奴、風呂に入れば消えるんじゃないのか?」
ズカズカとドアへ歩きながら呟くと
「消えないよ。空木殿、きみから香るのはフェロモンの匂いだからね。発情した雌の匂いをさせたきみが、外に出たらどうなるのかなぁ? まぁ、俺はどうでも良いけど」
両手を広げ、アメリカ映画の「Why?」的なオーバーリアクションして肩を窄めるソイツを睨み着ける。
でも、元の世界では歴代彼女達から「無臭」と言われ続けた僕。
まぁ……夜も淡白で体臭も体毛も無い僕は、匂いフェチ持ちという学生時代に付き合った彼女から
「鈴音に抱かれてると、女同士みたいで何か嫌!」
と振られた事があった。
嫌な事を思い出し、ガッツリ落ち込んでいると
「そのまま外に出ても構わないが、どうなっても責任取れないが良いかな?」
綺麗な顔立ちをして、男から見ても立派な肉体美を持つソイツの余裕の笑みにカチンと来た。
元の世界でも、こういう男が人生の勝ち組だった。
そう。僕から彼女をかっさらった社長の息子も、ソイツと同じ人種だった。
「お前の口車なんかには、絶対に乗らない!」
そう叫んで、走って部屋から飛び出した。
ガウン1枚に素足で飛び出した僕は、曲がり角で早速、知らない誰かにぶつかってしまう。
「リン様?」
護衛騎士だろうか。
腰には刀が差してある。
「あの、浴室に行きたいのですが……」
そう言って見上げると、ハァハァと荒い息をし始めた。
「リン様、甘い香りでたまりません……」
抱き締められ、両手で臀を鷲掴みにされてしまう。
もちろん、コイツの勃起したナニが腹に当たっている。
すると、地面に落とした飴玉に群がる蟻のように、通りかかった男女が僕に群がり始めた。
その目はまるで、催眠術にかかったかのように狂気じみている。
「止めろ! 離せ!」
逃げ出そうとしても、物凄い力で僕を僕を抱き締める腕が解けない。
幾つもの手が、僕を求めて身体を這い回る。ガウンの裾を捲り、肌を這う手の気持ち悪さに全身の毛が総立つ。
「嫌だ! 助けて!」
必死に逃げようとした僕の視線の先に、さっき飛び出した部屋のドアに凭れて余裕の笑みを浮かべているソイツの姿を見付けた。
「助けて! 信じるから。だから、助けて!」
必死に訴えた。
「俺の口車に、乗らないんじゃなかったのか?」
意地悪な笑みを浮かべるソイツに
「ごめんなさい! 信じる、信じるからお願い!」
涙を浮かべて叫んだその時、ガウンの紐が解かれて肌が露わになってしまった。
その時だった。
「誰の許しを得て触れている!」
低い、物凄い圧を感じる声と同時に、ビリビリとした覇気が空気を揺らした。
すると、まるで悪夢から覚めたように正気に戻った顔になり、僕を襲おうとした人達が床にひれ伏した。
「も、も、申し訳ございません!」
真っ青な顔をして、全員がブルブル震えている。
僕のガウンの紐を持っていた人達なんて、今にも死にそうな顔をして僕に紐を差し出している。
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