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第七章 事故現場
後味の悪いあの日から二ヶ月後、理真は一人であの事故現場に向かっていた。
あの日は頼人の運転する車に乗っていたから気が付かなかったが、そこへ行くための列車の本数は、理真の住む街とは比べものにならないくらい少ない。
加えて列車の車窓から見る限り、家も商店もまばらである。
少し歩けばコンビニがある理真の近所とは大違いだ。
どうして八十代の高齢者が運転をしていたのだろうかと、理真はずっと疑問に思っていたのだが、ここへ来てようやく納得した。
ようするに車を運転できなければ、どこへも行くことができないのだ。
無人の駅舎を出ると、理真はスマートフォンの地図アプリを頼りに事故現場へと向かう。
まだ燃えるようなとまではいかないまでも、山の木々は所々色づき始めていた。
あの日も、頼人と二人展望台で顔を見合わせて、まだ少し早かったねと笑いあったことを理真は昨日のことのように覚えている。
けれど、直後に悲しい事故が起きてしまった。
結果自分だけが生き残り、頼人はもうこの世にはいない。
そんなことを考えつつどれくらい歩いただろうか、ついに理真は思い出したくもない事故現場へとたどり着いた。
あれから一年も経っているだけあって、さすがに事故の形跡は一切感じることはできなかった。
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