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第一章 理真
キラキラと波が光り、沈みかけた太陽が水平線を照らす。
砂浜には長い影。足元の貝殻を拾って天を仰げば、頭上には星が輝き始めている。
波の音を背に街へ向かう。
やがて一粒、二粒と雨が降り出した。
街明かりに雨粒が光る。行きかう恋人たちは傘を広げて肩を寄せ合った。傘の下で手をつなぎ、頬に口づける。
来た道を振り向けば、遠くの海はまだ夕暮れの色を残していた。そちらにも雨雲が少しずつ近づいていく。勢いを増した雨が靴の中までしみてきた。
雨雲はやがて風を呼び、街はずれの森もざわめきだした。
やっぱり降ってきたな……。
そんなことを考えながら、理真はバッグから折り畳みの傘を取り出し、やや手こずりながらそれを広げる。
小さな晴雨兼用傘のお陰で辛うじて頭は無事だったものの、滞在しているビジネスホテルにたどり着く頃には、肩口や膝から下はびしょびしょに濡れてかなり悲惨なことになっていた。
ロビーで傘をたたみ雫を振り落とすと、理真は持っていたハンドタオルで申し訳程度に身体を拭く。
これではすぐにでもシャワーを浴びないと風邪を引いてしまいそうだ。
ため息をつくと、理真はエレベーターのボタンを押し、滞在している部屋のあるフロアへと向かった。
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