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白露の憂鬱
バイルーの部屋は質素そのものだった。雨風は凌げるが、ギリギリアウトかなという隙間風。床は暖かく焚かれた炉はなく、擦り切れた毛布に可愛らしい顔が2つ。こんな場所には、不似合いな薔薇色の頬の子供たちがぬくぬく包まって眠っていた。
「なんて!可愛いの!」
雲泪ユンレイは思わず簡単の声をあげた。
白露バイルーは誇らしげに、しかし少しはにかんで笑う。
「女の子?男の子?」
「両方です」
ほっぺに触りたくなる気持ちをグッとこらえて、それでもニヤニヤする顔が止まらない。私ってこんなに子供好きだったかしらと雲泪ユンレイは疑問に思いながらも続ける。
「そういえば、知り合いが宮女を探していてね」
「宮女です…か?しかし未婚の女性しかなれないのでは?」
「今の時代は縛りが緩くなってるんだよ、人材不足らしくてね。子供たちも大丈夫だよ、一緒に住める」
そんなわけはないので、白露バイルーは不安げだ。確かにこんな見窄らしい他人がいきなり、宮女づとめの話を持ってくるんだから怪しすぎる。騙されて売られても仕方ない話だ。
「子供たちの父親とは住んでいないんだろう」
「実は、子供たちは父に会ったこともないんです」
「それか…それなら」
雲泪ユンレイは突拍子もないことを言いだした。
「うちの息子の嫁になるかい」
白露バイルーは大きな瞳をさらに見開いて、きょとんとしたが、突然笑い出した。
「わかりました!私おばさまの娘になります!子連れでもよろしければ」
「こんな可愛い孫ができるなら大歓迎だよ」
「いつか、この子たちの父親が迎えにくるなんて夢を見ても仕方ないですもの。なんだか今日全部が吹っ切れた気分です。あなたの息子の嫁になるのは嫌じゃないわ」
「じゃあこのかんざしは娘に…」
雲泪ユンレイがかんざしを渡そうとすると、
白露バイルーはそれを断った。
「わたしからのせめてもの持参品です。私他には何も差し上げられるものがありません。ふっきれましたわ」
「じゃあいつか私が死ぬ時に受け継いでくれる?」
「ええ!」
息子とうまくいかなくても、白露バイルーは娘として、この子達を育てていきたい。謎の使命感が雲泪ユンレイに満ちていた。
息子との顔合わせを約束して、雲泪ユンレイは金子を渡して帰路に着いた。大満足の遠出であった。
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