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皇帝の素顔
「なるほど?わからん!」
堯舜ヤオシュンの反応は至極真っ当であった。
母が突然嫁を探してきたから、会ってみろという。相手は素性も分からない子持らしい。
母親付きの宮女たちも流石に皆困惑の顔をしている。
「私もそんなつもりはなかったし、よく分からないんだけど、なんかしっくり来たのよね」
決めてきた本人が分からないのだから、周りはもっと分からない。
「それにどちらにしろ色んなとこから娘が山ほど送られてくるのよ、1人ぐらい増えて衣食住面倒みてあげたらいいじゃないの」
無責任な母の言葉に 堯舜ヤオシュンは言い返す。
「そもそも後宮は開かない。俺は俺が皇帝と知って近づいてくる女は大嫌いなんだ」
「知らないわよ」
「え?」
あっけにとられる一同に構わず雲泪ユンレイは続けた。
「私は庶民のおばさんだったわけだから、あんたが皇帝だなんて言ってないわよ。だから見てもらえばいいじゃない、あんたそのものが実際のところどんなもんか。少なくとも白露バイルーちゃんは皇帝陛下に寄ってきたわけじゃないからね」
待ち合わせ場所と日時だけ言うと、雲泪ユンレイは背を向けてお気に入りの牡丹坊へ帰っていった。
堯舜ヤオシュンは「俺には心に決めた人が…」と食い下がろうとしたものの、背を向けた雲泪ユンレイの髪に翡翠のかんざしを認めると思わず声を失ってしまった。
去り行く母親付きの女官頭の小青シャオチンに「あの翡翠のかんざしは?」と聞いてみても、「雲泪ユンレイ様が後宮にいらした時からお持ちの翡翠のかんざしですが、何か」と返されるばかりであった。
白露バイルーとやらになし崩し的に会うことになったものの、 堯舜ヤオシュンは彼女を娶る気など無かったが、母の「だから見てもらえばいいじゃない、あんたそのものが実際のところどんなもんか」という言葉が何度も脳内に響いていた。
物心ついたときから唯一の皇太子で、今や皇帝になった今、そうでない自分そのものとはなんなのかすら正直言ってよく分からない。
ただ、3年前のあの日に出会った彼女は…俺そのものをみてくれた気がした。追憶に囚われながら唯一の皇帝は寒々しい夜を過ごしたのであった。
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