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母親の憂鬱
「最近の若い子の感覚なんて、全然わっからないわ。あれもいや、これもいや。挙げ句の果てに前時代の感覚で押し付けてくるなって!」
雲泪ユンレイは深くため息をつくと、まるで80の老婆のように柔らかい絹の布団の上に倒れ込んだ。
「雲泪ユンレイ様も充分若いですよ。ああなんてお肌!雪のように白くてシミひとつなくピッチピチ…ではございませんか…はいはい、脫いで湯浴みをいたしましょうね」
そう言いながら雲泪ユンレイの服を手馴れた手つきで脫がせていくのは、尚宮(お付きの女官頭)を擔當する小青シャオチンである。
「ああ、わたしもう40歳になるのよね…やっぱり感覚が古いのかしら」
ポツリと雲泪ユンレイが呟く。
「わたくしもですわ」
小青シャオチンが答える。
「けれど雲泪ユンレイ様は、この後宮にお越しになった24年前と姿形も変わらなければ、美しさも益々増している妖怪じゃないかとのもっぱらの噂ですよ。そもそも感覚が古いというより、完全に一般常識からはずれてるような…皇太后陛下ですもの、他の人と同じでいいわけありません!」
「ここに来たのも24年前なのよね、一般常識からずれたのかしら…皇太后になるだなんて思ってなかった!」
「私は思ってました。いきなり陛下を謀るあの度胸!並大抵の娘には不可能ですもの。最初からずれてました。堯舜ヤオシュン様も今や立派な皇帝陛下ですから、これで良かったのですわ」
「だめ、これで末代になったら国は滅びる、世界は動乱の時代に突入するのよ。このままは絶対だめ。あの子、きっと童貞陛下だわ!」
小青シャオチンには、クシャミをする堯舜ヤオシュン陛下が見えた。まさか母に童貞と言われているとは思うまい。あわれあわれ。
「しかし、皇帝陛下も23歳ですからね。20歳で即位なさって、喪を理由に大奥を開かなかったとはいえ、ご経験はあるかと…しかし雲泪ユンレイ様のご心配もわかります。確かにそろそろ嬉しい知らせが欲しいですわね」
その言葉に雲泪ユンレイは長いまつ毛を伏せ、色素の薄い眼はよりいっそう憂を帯びたように燻んだ。
「奕晨イーチェンは生きてるわ。おいおい、勝手に葬式やって代替わりかよって笑いながら帰ってくるはずよ」
自分に言い聞かせるように、雲泪ユンレイは答える。
「孫を見せてやらなきゃ、あの人に死ぬに死ねないじゃない。絶対よ」
湯浴みをする雲泪ユンレイの肢体を透かし窓から月の光が照らす。瞼を開けた、その瞳は青い月を映すかのように煌いた。
「仕方ないわね、ママが一肌脱がなくちゃ」
小青シャオチンは、その声を聞いてただただ嬉しかった。
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