31ミモザ思い出す

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 「でも、俺もそのうち赤ん坊が生まれたらしっかりしなきゃと思うようになっていた。シルヴィの事だってまんざら嫌いじゃなくなって行った。だっていつ帰るかもわからない俺の食事も洗濯もすべてきちんとしてくれてた。俺が優しい言葉の一つもかけなきゃならないのに、彼女は大きなおなかで大変な思いをしてるって言うのに…俺、何やってんだろうって思うようになっていたんだ。それなのにあの日…俺は取り返しのつかないことをしたんだ」  セルカークの顔がひどく強張り眉間の間には深いしわが寄る。握りしめられた拳は骨が白くなって爪が皮膚に食い込んでいるみたいに見えた。  セルカークは大きく息をつき首を大きく横に振ってため息をひとつした。  (そんな顔をしたって無駄よ。あなたのしたことは許される事じゃないんだから、あなたは最低の男だったもの)  ミモザは内心セルカークを非難していた。  「それで…」(シルヴィに何をしたのか言ってごらんなさいよ。ほら、どうしたのか言いなさいよ)と言ってやりたかったが唇を噛みしめてこらえた。
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