プロローグ

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プロローグ

「今夜は離さないで、お願い……ライオネル様」  エイデア帝国の帝城内にあるカラードの離宮で、リオーネは皇弟ライオネルに抱き着き懇願する。  大人が数人は寝そべることができる巨大な天蓋付きのベッドは、お付きの侍女たちの手に寄り、いままさにカーテンを閉じようとしていた。  絹で幾重にも巻かれた寝所では夜会のドレスを脱がされ半裸にされたリオーネが豊かな黒髪を純白のシーツの上に広げる。 「おまえたちは控室で待て!」  リオーネが恥ずかしくないように、この関係が外部に漏れないように。  いくつもの思いが交錯した指示を受け、侍女たちや衛士たちは楚々とした仕草で扉を出て行った。  やがて、しんとした冬独特の静けさが周囲を支配する。  暖炉にくべられた魔法炎の生み出す暖かさはリオーネの真っ白い肌を軽く上気させていた。  誰もいなくなったのを理解して、少し大胆になった女伯爵は死別した夫のいない空白と寂しさを埋めるかのように、皇弟に抱き着いて離れない。  ふわり、と浮いた巻髪を愛おしそうに片手ですきつつ、皇弟ライオネルは戦神の名にふさわしく精悍な顔つきに薄い笑みを浮かべた。 「今夜はどうしたんだい、リオーネ。いつもはもっと自立した強い女性なのに」 「ッ……それは――」 「まあ、そんな君の裏表がある所も魅力なんだが」  ライオネルはリオーネの豊かな双丘に手をやり、下からてのひらで包むように揉みしだく。  リオーネは小さく息を呑み、彼から目を逸らしてしまった。  胸元から這い上がってくる悦びが堪えきれず、心が落ち着かなくなってしまいそうだったからだ。  年上が持つ余裕からくる優しさと戦いと仕事とする軍人としての冷酷さ、非常さが混在する視線のなかに、なぜか皇族としての自負や傲慢さは見えない。  普段の彼は人を寄せ付けない鋼のような凍てつく雰囲気を携えているのに、リオーネに対してだけは人懐っこい子犬のようなあどけなさが潜んでいて、ひたむきで熱い眼差しに鼓動が高まった。  彼に見つめられただけで、まだドレスに覆われた部分も、さらけだされた胸や太ももすらも、肉体のありとあらゆるところが、彼に晒されてしまったような錯覚を覚えた。  どことなく息苦しさを感じてしまい、頬が熱く火照る。  彼の手が乳房を柔らかく揉みしだくたびに薄く唇が開き、はしたなく喘ぎ声をあげてしまいそうになる。貴族婦人らしくどうにかそれを堪えると、リオーネはライオネルの首元に両手を回した。  深く息をしながら「こっちを向いて」と諭されても顔を背けて恥ずかしさを見せないようにするが、彼は待ってくれない。  そっと唇を吸われて全身の血が燃え上がった。  その勢いの激しさにリオーネは抑えていた理性のタガがはずれた気分になる。  ライオネルと唇を二度、三度と深く交わし情欲が高まっていく。背中が折れそうなほどに強く抱擁を受けたことで思わず「アッ」と声を漏らしてしまった。  ――誰にも聞かれたくないのに――ッ。  リオーネはお忍びで彼の寝室を訪れたことをある意味、後悔していた。  皇弟の寝室は広く二人だけの吐息が行き交い、鼓動が外に漏れてしまいそうなほどに脈打っている。  廊下には侍従や警護の衛士が分厚い年季の入ったオーク材の扉を守っていて、彼等に知られてしまうと厄介だ。  だが、室内は冬の季節とあいまって静けさに満たされていて、どうしたって彼を――ライオネルを意識してしまう。 「殿下……もっと優しく――聞こえてしまいます。んむッ……」 「誰に聞こえるというんだ、リオーネ。侍従たちはこの部屋の四方から遠く離れるように命じてある。いまを邪魔する者は誰もいないよ」 「‥‥‥ッ。はい……」  唇を塞がれ、乳首をいじられながら教えられる快楽に、リオーネは抗うことができない。  それどころか誰にもこの関係を知られることがないのだ、と分かると途端に安堵と余裕が生まれてきた。  心にもたらされた安心感はリオーネを大胆にする。 「君はどうしたい?」  挑発的な視線と言葉。  リオーネは自分のなかに眠っていた牝の部分を刺激されて、大胆になる。 「こう――したい……かも、しれないわ」  腰に力を込めるとリオーネは仰向けの状態から、上半身を起こしてライオネルと位置を入れ替えた。  武人である皇弟は、「ほう?」と愛する女性の下半身の強さに驚き感心した顔つきになる。  リオーネは優位な態勢になったはずなのに、彼にすべて見透かされているように感じてしまい、「嫌だわ……殿下。その目つきはずるいです」と非難の声をあげる。  彼の熱く熱を孕んだ視線は、リオーネの芯をずんと熱くさせる。  ライオネルの下半身が硬くなっているのを、薄い布腰に感じてしまい、リオーネは秘部をしっとりと濡らした。  ――身体が彼を欲しがっている。すべてを征服されたと――望んでいる。  この帝国皇帝の弟にして、冷酷無比な戦い方で敵を打ち倒すことからつけられたあだ名が「冷血皇弟」。  そんな世間の予想とは真逆で、本当の彼は心を開けば情熱的でとても愛の深い男性だった。人を殺すことを嫌い、しかし、戦場では臆病なさまを見せばすぐさま、負けにつながる。  仕方なく冷酷な仮面をかぶった青年の隠された本性は――激しい情欲と愛に飢えた寂しさを併せ持つ、不器用な人。  皇帝の弟として利用されるだけ利用されてきたことで、決して他人を請け入れず寄せ付けない鉄壁の氷壁を心に張り巡らせた、年上の男性。  なのに、いま彼はまるで10歳も年下の少年のようにリオーネの乳房にむしゃぶりつき、下着をはぎ取り、猛る己のモノを挿入しようとしている。  ――まるで愛を知らない少年みたい。仕方のない人――。  リオーネはこれまで経験したどの夫よりもたくましくそそり立ったライオネルを受け入れる。 「ああっ、ライオネル様……ッ」  真下から幾度も幾度も突き上げられた衝撃は、五年間眠っていたリオーネの女としての部分を呼び起こすには十分だった。  しなやかで硬いライオネルの銀髪に手を絡め、リオーネは彼の激しい愛欲のすべてを受け止めようと両膝を立ちに成り、落ちないようにでも心は墜とされたいと愛壺に彼を飲み込んでしまう。 「リオーネ! リオーネ……僕には君が必要だ! リオーネ……」 「ライオネル……」  いつの間にか彼はあぐらを組み、その上にリオーネを抱きかかえていた。  臀部を回された腕一本だけが、リオーネを支えている。  どうにか振り落とされないように、と足をライオネルの腰に回し、両手を彼の首へと回して安定を求める。  そんなリオーネの危機感を知ってか知らずか、ライオネルの片方の腕は無造作に、それでいて繊細な手つきでリオーネの乳房を虐め始めた。  うすく突き出た桜色の乳首を甘く噛みされてリオーネは「ヒッ」と強制を挙げる。  ライオネルの腰が上下するたびに、膣奥の大好きな場所に彼のモノが辺り、擦り上げ、快感を生みだしていく。リオーネは思わずのけぞり白い喉をさらけだしていた。 「離れるな、リオーネ。僕には君だけが大事なんだ」 「そ――んなっ、離れません、愛おしいあなた……これからも、ずっと――戦女神があなたを見限っても……離れるようになるなら寂しいわ」  首に吸い付くようにしてライオネルの牙が軽く触れる。  髪を優しく撫でられているときのような感覚がやってきた。  続いて、舌先で激しくすい疲れキスの嵐が首筋や肩口、背中をはい回る。  その都度、リオーネはあられもない矯正をあげ喘ぐ羽目になった。 「好きだ! リオーネ、好きだよ。……愛おしいといってくれるなら、離れないでくれ。僕の問題が片付いても離れるのがさみしだって? なら、ずっと側にろ! 僕から離れるなっ」  好きだと繰り返し叫び、ライオネルはリオーネの肉体を弄ぶ。  それはまるで、彼の虜にして永遠に話したくないかのようだった。  妻になれ、と言葉が出そうになるがライオネルはぐっと押し込める。 『あなたのお力に立てるように努めます、殿下。でも――結婚は考えられません』  それはこの関係を始めたとき、リオーネから告げられた約束事だったからだ。  リオーネの荒い息がライオネルの耳元に聞こえてくる。彼女の首筋に再度唇を寄せると、リオーネはライオネルの片耳を荒く舐め、たまに噛みつくようにして愛欲の深さを示す。  どくん、どくんと互いの胸板を通して熱い鼓動がなり、リオーネは胎内で彼のモノが一段と大きくなるのを感じた。  ――来る!  互いの心音が肌を通して伝わりうっとりとしてしまう。  リオーネはライオネルの熱い思いを、余すことなく受け入れた。
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