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声をかけることは憚られたが、どうしてもその男性が気になり桜はそう声をかけた。
彼はしばし立ち止まり、答えるように口を開いた。
「俺は…いや、自分が誰なのかわからないんだ」
名前すら思い出せないーー。そんなことがあるわけがないとは思うが、彼の瞳は嘘をついているようには見えない。
それからというもの、奏多——彼に与えられた仮の名前の男性は、桜が長屋で知り合った古着売りの夫婦の元に一時的に身をよせることになった。
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